ESG法務研究会は、合併再編等会社法手続の実績は最大級!
TOPICS
1.最近の出版は次のとおりです。いずれも実務書であり、アマゾン等で、
ご確認ください。
(1)『募集株式と種類株式の実務〔第2版〕』…………2014年5月発売
(2)『改正会社法と商業登記の最新実務論点』…………2015年11月発売
(3)『論点解説/商業登記法コンメンタール』…………2017年2月発売
(4) 『商業登記実務から見た中小企業の株主総会・取締役会』
…………2017年4月発売
(5)『総務・法務担当者のための会社法入門』…………2017年10月発売
(6)『事例で学ぶ会社の計算実務』………………………2018年9月発売
(7)『「株式交付」活用の手引き』………………………2021年7月発売
(8)『親子兄弟会社の組織再編の実務〔第3版〕』……2022年9月発売
(9)『組織再編の手続〔第3版〕』………………………2022年10月発売
(10)『「会社法」法令集〔第14版〕』…………………2022年11月発売
(11)『事例で学ぶ会社法実務【全訂第2版】』…………2023年2月発売
(12) 『商業・法人登記500問』……‥‥‥‥‥………2023年7月発売
(13) 『法人登記実務から見た労働者協同組合の運営』…2023年7月発売
(14)『会社法務書式集〔第3版〕』………………………2023年7月発売
(15) 『目からウロコ!これが増減資・組織再編の計算だ!〔新訂版〕』
………2024年5月発売
(16)『商業登記実務から見た合同会社の運営と理論〔第3版〕
…………2025年4月発売
2.当事務所と親しい企業法務中心事務所が戦力となる人材を募集しています。
下記に直接連絡してください。
(1)司法書士法人TOSグループ
https://tos-group.co.jp/recruitment/
(2)東京共同司法書士法人
http://corporate-legal-services-tokyo.com/
徒然日誌
2025.08.21(木)【法務局も異常気象中】(金子登志雄)
8月半ばを過ぎたこの時期になっても、いま商業登記を申請したら、登記
の完了時期は東京法務局(本局)では1か月後です。新宿法務局では1か月
以上でした。
https://houmukyoku.moj.go.jp/tokyo/static/kanryoyotei.htm#RANGE!A523
先日「急ぎでお願いした〇〇について、いまどんな状況ですか」と電話問
い合わせしましたところ、急ぎ案件が急増しており、まだまだ日数がかかる
といわれてしまいました。
私が企業法務の仕事についてから40年、こんなのは初めてです。法務局
も異常気象に覆われているとしか言いようがありません。
しかし、われわれ商業登記中心事務所にとってはありがたいことです。昔
は(いまでも不動産登記中心事務所からは)「商業登記専門では食えないぞ。
単価も安いし」といわれていたものですが、いまは若手の司法書士沓脱事務
所(TOSグループ)や真下事務所(アビエイターズ)のご活躍で商業登記
中心事務所の横のつながりなどもできているようですし、一昔前とは様変わ
りです。
商業登記の面白さややりがいは企業相手だからかもしれません。それなり
の社会常識がないと相手にされませんし、登記だけが仕事というより合併契
約書のチェックや株主総会招集通知のチェックをも仕事のうちであるため、
企業活動に少しでも役立っているという実感が持てます。体力も不要だとい
うのが高齢の私には一番助かりますが。
2025.08.20(水)【登記記録は取締役と代取の地位分離型】(金子登志雄)
非取締役会設置会社で代表取締役である取締役が取締役の辞任届で辞任登
記を申請する場合に、代表取締役は「退任」か「辞任」かという7月30日
の本欄については、広島の幸先Xでも取り上げてくれ、商業登記に関心が強
い方の間では結構話題になったようです。
https://x.com/hiroaki_kosaki/status/1950311878250606870
その後もいろいろ考えているのですが、取締役と代表取締役の地位が不可
分で一体化した会社だとしても、それは実体法の思考に過ぎず、株式会社と
しての登記では、必ず取締役と代表取締役で別枠で登記されます(特例有限
会社と比較してください)。つまり、登記記録上は2つの別々の地位だとも
いえますから、取締役だけの辞任届では、代表取締役の登記枠の抹消には不
十分で、抹消のためには退任の申請が必要だとはいえないでしょうか。
また、7月30日の本欄では取締役が1名の場合を前提にしましたが、取
締役が複数(例えばAB2名で代表取締役A)でAが取締役のみの辞任届を
提出した場合にはAが地位分離型(取締役の互選)で代表取締役に選定され
たのか、地位一体型の株主総会の決議で選定されたのかは辞任届だけは登記
所に判明しないはずです。これだけのためにわざわざ定款を添付する必要も
ないでしょうから、辞任をも含んだ広義の「退任」での登記のほうが融通が
利き便利だなと思いました。辞任が大勢になるまで退任で申請してみます。
2025.08.19(火)【司法書士の日/大阪・関西万博2025】
(東京・鈴木龍介)
8月3日は「司法書士の日」というのをご存じでしょうか? これは、司法
書士の前身である代書人制度が明治5(1872)年8月3日に誕生したこと
に由来します。
今年の8月3日(日)の「司法書士の日」にあわせるかたちで、日本司法書
士会連合会(日司連)が大阪・関西万博に「司法書士による自由かつ公正な社
会の形成プロジェクト」と銘打ってステージ発表&ブース展示を行いました。
私も日司連の副会長として参加して参りました。
ステージ発表では、日司連会長とともに日司連公式キャラクター「しほ~し
し」が登場し、司法書士の仕事を紹介しました。また、カンボジアで法律アド
バイザーとして活躍する司法書士や、被災地で活躍する司法書士が登壇し、そ
れぞれの取組みについてのプレゼンテーションを行いました。
ブース展示では、司法書士の数ある仕事のひとつである不動産登記における
本人確認を、「地面師を探せ!」というゲームで体験できるコーナーを設けま
した。ちなみに、地面師とは、他人の土地の所有者になりすまし、不正に売却
して利益を得る詐欺集団のことですが、司法書士は、こうした地面師のウソを
見抜き、財産を守る重要な役割を担っています。
当初の予想よりも大幅に多い方々に来場いただき、「司法書士」を知っても
らえたとともに、世界にも「司法書士」が発信できたのではないかと思ってい
ます。
猛暑の中ご来場いただいた皆さま、ありがとうございました。そして、関係
者の皆さま、お疲れさまでした。
余談になりますが、私自身、先の大阪万博(昭和45(1970)年)に続
いて2度目でした(写真は残っているものの記憶はなし・・・)。
【日司連:大阪・関西万博】
https://www.shiho-shoshi.or.jp/expo2025/
2025.08.18(月)【次条とは】(金子登志雄)
お盆休暇は法務局が休みではないため1日置きに出勤しましたが、郵便物
のチェック程度で、あとはのんびり横浜市内の自宅で過ごしました。
自宅では原則としてテレビは食事時しかみないので、あとは部屋にこもっ
てパソコンでユーチューブをみたり、10月23日セミナーの講義レジュメ
案を作成したりして時間をつぶしていました。
https://stclub.securesite.jp/public/os2002/
昨年は入院中だったため11月の東京会のセミナー講師をキャンセルして
しまいましたので今度の講義は久々の経験になります。そこで、第三者割当
と株主割当の割当ての差を説明しようと会社法条文をみておりましたら、お
かしなことを発見しました。
さて、皆さん、会社法では、202条、202条の2,203条と並んで
いますが、202条1項に「次条第2項の申込みをすることにより」とあり
ます。この「次条」とは、202条の2でしょうか、203条でしょうか。
どう考えても意味合いからすると、203条です。会社法の改正で途中に
202条の2が挟まっても、次条というのは飛び越えて判断するのか、はじ
めて知ったと最初は思いましたが、まさかと思い他の条文を検索したところ、
102条3項の次条は102条の2のことで、179条1項の次条は179
条の2のことでした。
調べましたら、102条の2や179条の2は平成26年改正で新設され
たもので202条の2は令和元年改正でした。前者の際は102条や179
条自体も改正対象だったのですが、後者の改正の際は202条の2を追加し
ただけで202条の次条については見落としたのでしょう。人間のすること
ですから、こんなことがあっても不思議ではありません。
もっとも、今さら気づいたのか遅いよといわれてしまいそうです。京都の
内藤先生は5年前に気づいていたと仙台の立花さんから教えてもらいました。
https://blog.goo.ne.jp/tks-naito/e/d3e3008449b44f4b54700197c1eb5d5e
2025.08.08(金)【やっと登記が終わったのに更正箇所発見】
(金子登志雄)
7月に登記を申請してやっと1か月もかかって終了したというのに、事後
謄本を取得してみたら、ミスがあったなどということはありませんか。先日
ありました。就任日につき令和7年とすべきところ、私の申請書作成ミスで
役員の一人だけ令和6年になっていたのです。
こういうケースは昔からしばしば存在していますが、登記用紙が和紙の時
代には和紙に記入した法務局職員のミスが原因だったことも少なくなかった
ためか、お願いすれば職権登記で直してくれたものですが、オンライン申請
が主流になった今日では登記すべき事項を作成した司法書士の責任とされて
更正登記が必要だといわれることが増えました。
いくら多忙だったとはいえ、このような単純ミスをなぜ発見し補正にして
くれなかったのかと泣き言をいいたくなりますが、私がいうのもおかしいの
ですが、あの金子先生の申請なら慎重に審査せずとも大丈夫だろうと思われ
る部分もあるらしく、うっかり泣き言もクレームもいい出せません。
そこで、いまでは、私も血の通った人間であり法務局職員も同じであり、
こういうケアレスミスをしてしまうのが人間ですから、たまには堂々と自己
負担による更正登記を受け入れようと思うようにしています。
さて、来週はお盆で休暇の会社が少なくありません。当事務所と同居中の
アクモスも企業相手の業務ですから同じく一斉休みが可能です。我々司法書
士は法務局が休みではありませんし、7月申請登記がいまだに未完了のもの
も多いため、休んで帰省するなどということはできませんが、この猛暑では
少しは休憩も必要でしょうから、本徒然については来週いっぱいお休みにす
ることにいたしました。ご了承ください。
2025.08.07(木)【会社を代表する取締役と代表取締役】(金子登志雄)
昨日は原爆記念日でしたが、原爆というと毎年、下記の有名な動画を思い
出してしまいます(1分程度です)。
https://commons.nicovideo.jp/works/sm29728725
人類の歴史上最大の無差別殺戮(ジェノサイド)に平気で拍手する欧米文
化に強い違和感(差別感覚?)を持ってしまうのは私だけでしょうか。それ
も広島、長崎と2回も実行されました。いまもガザで続いています。
さて、いつもの会社法の話題に戻しますが、7月30日の本欄でも書いた
「取締役と代表取締役の地位の分離」とはどういう意味かご存じですか。各
自代表か、選定される代表かの区別ではなく、株主総会以外の機関で選定さ
れる代表かどうかであり、取締役会や定款の定めによる取締役の互選で選定
される場合が地位の分離です。株主総会で選定される場合には代表権を追加
するのではなく、他の取締役から代表権を剥奪するのだから取締役と代表取
締役の地位は一体化したままだと説くのが登記実務です。
ご承知のとおり、特例有限会社では、取締役全員が「会社を代表する取締
役」であれば代表取締役は登記されません。また旧有限会社法には「会社を
代表する取締役」という用語はあっても「代表取締役」という用語はありま
せんでした。
そのため、会社法制定時には誰もが「会社を代表する取締役」とは有限会
社型代表制の取締役で、「代表取締役」は取締役と地位が相違し代表権を追
加された取締役という思い込みがあったため、911条3項に「代表取締役
の氏名及び住所」が登記事項とされただけだったため、「会社を代表する取
締役」しかいない地位一体化の有限会社型代表制の株式会社では代表取締役
が登記されないという解釈も生じていました。
最終的には立法担当者から会社法47条1項に「代表取締役(株式会社を
代表する取締役をいう。以下同じ。)」と定義されているとの説明で納得し
ましたが、代表取締役が株式会社を代表する取締役であるのは当然のことで、
この規定を「会社を代表する取締役は代表取締役である」と読み取れなかっ
たわけで誤解されやすい規定の1つでした。
2025.08.06(水)【代表取締役等住所非表示措置】(仙台・立花宏)
昨年10月から、一定の登記申請時に併せて申出をすることにより、株式会
社の代表取締役等の住所を登記事項証明書等に表示しない措置(以下、「代表
取締役等住所非表示措置」といいます。)の制度が始まっており、徐々に、申
出を検討する会社も増えているように感じます。
法務省のデータでは、昨年10月から今年3月までの半年間で6539件の
申出がなされたようですが、おそらく、今年の5、6月あたりで、ぐっと増え
ているのではないかと感じています。もっとも、あくまでも、私個人の感想で
あって、法務省が今年4月以降のデータを公表するまで、実際にはどうなのか
わかりません。
ただ、この制度を導入すると、代表取締役等住所非表示措置を希望しない申
出をする等してその措置を終了させないと、当該会社自身であっても、申出を
した代表者の住所が表示された登記事項証明書等は取得することができません。
会社自身が、代表者の住所付の登記事項証明書等を取得したいと思っても、措
置を終了させないと取得できないというのは、個人的には、少し不便な制度だ
とも感じています。
印鑑提出をしている会社の代表者は、印鑑カードを法務局に持参すれば、印
鑑証明書だけでなく、登記事項証明書も簡単に取得することができます。この
印鑑カードを利用して法務局で取得する場合に限り、代表取締役等住所非表示
措置がなされている代表者の住所が表示された登記事項証明書を取得できるよ
うにすることはできないものでしょうか。実務に役立つのではないかと思いま
す。
なお、現在では、印鑑提出をしていない会社もあると思いますので、会社の
代表者ごとに、マイナンバーカードのようなものを取得できるようにして、そ
うした登記事項証明書等を取得できるようにすることも検討してほしいと思い
ます。
ついでに、そのマイナンバーカードのようなものを利用し、スマートフォン
等で、会社の代表者の本人確認ができるようなシステムができたら、実務に役
立つのではないかと思いました。
それから、これは、私の個人的なわがままだとは自覚していますが、できれ
ば、司法書士等の資格者については、職務上必要な場合に限り、代表取締役等
住所非表示措置が講じられている会社についても、住所付きの登記事項証明書
等を取得できるようにしてほしいと思っています。
2025.08.05(火)【法人協の集い2025】(東京・鈴木龍介)
去る8月2日(土)に全国司法書士法人連絡協議会の毎年恒例の「第14回
全国司法書士法人の集い」が日司連ホールで開催されました。猛暑の中、北は
北海道、南は沖縄から80名をこえる方々が参加されました。
法人協 http://houjinkyou.com
私も法人協の会員ではありますが(法人協の前理事長)、今回は日本司法書
士会連合会の副会長(会長の代理)という立場で、来賓として臨席いたしまし
て、冒頭に挨拶をさせていただきました。
今回の集いのコンテンツとしては、まず荻野恭弘法人協理事長から法人協の
今期の事業計画――重点施策は会員増強と発信力強化――が披露されました。
続いて、第1部として、法人協の理事でもある司法書士法人ラインメッツア
の岩白啓佑司法書士による「10年後を生き抜く司法書士法人の条件―DX・
AI・制度改正を見据えて―」というテーマでの講演が行われました。休憩を
はさみ第2部として、柿沼慶一税理士等による「士業法人の事業承継2025」
というテーマでのパネルディスカッションが行われました。いずれも興味深い
内容で、いろいろとヒントがありました。
その後、場所を変えて、懇親会が開催され、新たな出会いあり、久しぶりの
再会ありと、楽しいひとときでした。
法人協の役員、ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。そして、
お疲れさまでした。
2025.08.04(月)【花火大会に思う】(島根・根来川弘充)
暑い日がつづきます。体調を崩される人も多いと思います。私も夏バテにな
っております。
ところで全国各地で花火大会が開催されると思いますが、事前の広報でも新
型コロナウイルスへの注意喚起が少なくなったのではないでしょうか。ようや
く平穏な日常が戻ってきたようで安心します。
昨年、松江市で開催された花火大会では、ドローンショーが開催されました。
空中に立体的に浮き上がる文字が、そのまま留まりつづける光景を目の当たり
にして、新しい時代を迎えた気分になりました。
一方で、戦地となっているウクライナでは、ドローンが、戦況に大きな影響
をあたえているとのことです。
花火のような利用であるのなら、誰もが喜べることなのですが、戦争での武
器として進化していることは、望ましいとは言えないでしょう。
今年の花火大会でもドローンショーが開催されるとのことです。さらなる進
化があることと期待しつつも、ウクライナでの戦争が早くおわることを願いた
いと思います。
2025.07.31(木)【登記所は待たせるところ】(金子登志雄)
定時株主総会のピークである6月下旬も終わり、7月も本日で終わるのに、
都内の大手法務局ではいまだに登記完了予定日が申請からほぼ1か月後です。
異常気象(?)状態です。
顧客から頻繁に進捗状況の問い合わせを受けていますが、インターネット上
の完了予定日を示し、かつ登記申請済みである旨の証拠である受領書(受付の
お知らせ)を送り、理解してもらっています。受領書も送るのは顧客自身が取
引先などから、まだ謄本が手に入らないのかなどといわれているため、ちゃん
と申請済みで内容はこうだと示す必要があるためです。
顧客の中には受領書で知った受付番号をもとに直接登記所に連絡し進捗状況
を尋ねる方もいらっしゃいますが、登記所も顧客が急いでいることを知ると協
力してくれています。こういう点では登記所は話の分かる役所ですね。
ところで、司法書士の皆さんの中には、こうも時間がかかると顧客に申し訳
ないと思い、イライラしている方も少なくないでしょう。
それで思い出したのですが、50年以上も前のことですが、大学を出て信託
銀行に務め銀行業務の窓口勤務が最初の仕事だった私は、顧客を長時間待たせ
ると申し訳なさでいっぱいになり、事務方にまだかまだかとせかしたものでし
た。それをみかねた上司が私を呼びつけ、「金子なぁ、銀行というのは待たせ
るところだとお客を教育するのも君の仕事だ」と叱られてしまいました。それ
以来、お客に「混雑しておりお待たせしてしまいますので、買い物でもありま
したら、それを済ませて、またお立ち寄りください。それまでに済ませておき
ますので」などと顧客に対応するようになりました。
というわけで、登記所は待たせるところで、書き入れ時には登記の完了まで
に1か月程度かかるところだと顧客に理解していただく努力をし、いらいらす
るのはやめにしましょう。
2025.07.30(水)【一人取締役の辞任】(金子登志雄)
株式会社で取締役がA一人だと、「取締役A」だけでなく「住所/代表取締
役A」という2枠で2つの登記がなされます。
さて、この場合にAが辞任しBに交代する事案につき、「取締役A」の辞任
届(会社実印押印)だけだったので、「取締役A辞任」「代表取締役A退任」
で申請したところ、別の部分で補正があり、ついでに、「代表取締役」につい
ても退任でなく「辞任」に直すよう指示を受けました。
東京法務局本局でしたが、理由は「取締役と代表取締役の地位が分化した会
社(取締役会設置会社や互選代表制採用会社)なら退任でよいが、この会社は
地位が分離していないので、取締役の辞任は代表取締役の辞任を含むからだ。
取締役の就任の際も代表取締役の就任承諾は不要だったのと同じ関係だ」とい
われました。要するに、「代表取締役である取締役」の辞任だから、代表取締
役も辞任だ」ということでしょう。
なるほどと思い、「何十年もこれで受け入れられて来て、補正は初体験です
が」とちょっとだけ皮肉で応え、受け入れました。しかし、知らぬは私だけか
と思い、司法書士仲間のメーリングリストに問い合わせたところ、ほとんどが、
「ワタシもずっと退任で登記してきた」という返答ばかりでしたが、勉強熱心
な仙台の立花先生から「その見解は昨年10月の登記研究920号『基礎から
考える商業登記実務(横浜地方法務局法人登記部門首席登記官山森航太)』で
主張されたものだと教えてくれました。調べたら山森氏は元商事課の法規係長
をも務めた理論家の方で、現在は東京法務局第一法人登記部門の首席登記官の
ようですから、現場への影響力は大きいでしょう。
しかし、そうだとしたら、平成18年5月の会社法施行日から、そういう運
用にしてほしかったと思いました。ご承知のとおり旧商法時代の株式会社は取
締役会設置会社に限られていましたから、取締役と代表取締役は別枠に登記さ
れました。取締役と代表取締役の地位一体化は有限会社に限られ登記記録の構
成も異なりました。会社法制定で有限会社法は廃止され、有限会社の地位一体
型の代表制は株式会社にも取り込まれ、株式会社の基本型代表制が有限会社型
になったにもかかわらず、登記記録上は旧株式会社型で取締役が一人でも取締
役と代表取締役の2つの登記がなされるようになったわけです。
したがって、実体法的には取締役と代表取締役の地位が一体化していても、
登記記録上は2つの地位です!。また、取締役が一人であっても、その者は、
いわゆる当初からの各自代表ではなく、取締役の中から株主総会の決議により
わざわざ代表取締役と定められた者だった場合が多いでしょう。であれば、取
締役とは異なる登記記録上の地位を失うという意味で「退任」でもよいのでは
ないでしょうか。
今後の運用がどうなるかは不明ですが、現場が混乱するだけですから、退任
でも受理され補正ということにはならないだろうと予想していますが、頭の片
隅に入れておいた方がよいでしょう。
2025.07.29(火)【「叙勲」とは?】(東京・鈴木龍介)
先日、司法書士界の先輩の「叙勲」の祝賀会に臨席して参りました。そもそ
も叙勲とは何かがよくわかっていないこともあり(私だけ?)、少し整理して
みました。
叙勲とは、国が個人の功績や功労を称え、勲章を与える制度のことです。代
表的なものとしては、主に国や社会に対して顕著な功績をあげた者に授与され
る「旭日章(きょくじつしょう)」と、長年に渡り公務に従事し、功労があっ
た者に授与される「瑞宝章(ずいほうしょう)」があります。司法書士の場合
には、このどちらかが多いようです。
ちなみに、叙勲にはランク(等級)が設けられており、功績の内容や影響の
大きさ等に応じて、上から順に「大綬章」、「重光章」、「中授章」、「小授
章」、「双光章」、「単光章」となっています。
勲章の授与については、内閣が推薦し、天皇が授与し(日本国憲法第7条に
基づく国事行為)、年2回春と秋(春の叙勲・秋の叙勲)に行われます。具体
的には、①各府省・団体からの推薦(司法書士の場合の推薦期間としては法務
省and/or日本司法書士会連合会)、②内閣府賞勲局による調査・審査、③閣
議決定、④天皇による裁可、⑤官報に掲載、⑥勲章の伝達という流れになりま
す。
ちなみに勲章に似た制度として「褒章」というものがありますが、勲章は長
年の功績等を称えるのに対し、褒章は特定の行為・成果等を称えるという色彩
が強いといわれています。
2025.07.28(月)【年次研修参加】(金子登志雄)
26日の土曜日は日司連年次制研修に出席してまいりました。午後1時から
5時まで4時間であり、メインは10名程度のグループ分けによるグループデ
ィスカッションでした。
ディスカッションのテーマは次の3題でした。
課題1:犯収法及び職責に基づく本人確認等
課題2:商業法人登記における本人確認及び登記申請意思の確認等
課題3:遺産承継業務における遺産分割支援等
不動産取引で遠隔地の買主の意思確認をどうするかとか、遺産分割の特別受
益を司法書士が知っていた場合にどうするかとか、実によく練れた課題ばかり
でした(それだけ受講生に注意深さを求める内容にできていました)。
課題2は商業登記案件だとしても、なりすましの買主による不動産M&A
(不動産を直接買うのではなく株式買収で会社ごと買うこと)による不動産取
得とその売却が内容でしたので、事実上は不動産案件に近い内容でした。
商業登記でも合併や会社分割では大きな財産が動きますが、それは効果であ
って、手続ではそれが表に出てきません。だから動く財産に比して報酬が安い
ともいえますが、手続に日時を要することも多いため、めったにない乗っ取り
は別としてリスクが少ないですし、さらに、すでに高齢の私などは新規顧客が
少なく長年の常連顧客ばかりなので、危ない目に遭遇する機会も少なく、こう
いうセミナーは自分が恵まれた環境にいることを再認識するばかりです。
2025.07.24(木)【業務執行社員の退職慰労金】(仙台・立花宏)
合同会社の業務執行社員のひとりが持分を他の社員のひとりに譲渡して退社
しました。他の社員達は、退社した業務執行社員の長年の業務執行の労に報い
るため、退職慰労金を支給したいと考えました。
さて、合同会社においては、このような場合に、退職慰労金を支給すること
はできるでしょうか(税務上の論点については触れないことといたします)。
個人的には、この点について言及している文献を見つけることができていま
せん。また、インターネットで検索するといくつか言及しているサイトはある
ようですが、私の疑問に明確に答えを出してくれているものは見つけることが
できませんでした。
そこで、私見を簡単にまとめてみたいと思います。
前記の退職慰労金は、「業務執行の労に報いるため」とありますので、業務
執行社員としての在職中の職務執行の対価だと考えます。
ところで、本年5月28日(水)と6月11日(木)の本欄で、業務執行社
員に対して業務執行の対価(報酬等)を支給する場合、どのような手続が必要
かという点についての私見を記載いたしました。退職慰労金が業務執行社員に
在職していた期間の職務執行の対価の後払いなのだとすると、これと同じ考え
方による必要があるはずです。
そうすると、業務執行社員であった者に退職慰労金を支給するには、定款の
定めが必要ということになります。
たとえば、定款に「業務執行社員の報酬、賞与その他の職務執行の対価とし
て当会社から受ける財産上の利益については、当該社員以外の社員の過半数の
同意による承認を受けなければならない」という規定があるのであれば、退職
慰労金もこの規定の中の「職務執行の対価」に含まれ、必要な手続をすれば支
給することができると考えます。
逆に、定款に、こうした退職慰労金の支給を許容する定めがないのであれば、
支給はできないということになります(注)。ただし、事前に定める必要はな
いと考えられ、退職慰労金を支給するにあたって、定款を変更し、規定を設け
て支給を決定することも可能だと考えます。
文献で見かけないところをみると、この論点はまだ、実務ではあまり問題が
生じておらず、議論が進んでいない分野なのでしょうか。実務への影響も少な
くなさそうで、個人的には、上記のように考えてよいのかどうか、悩ましい分
野だと感じています。
注)定款に規定がなくても支給はできるかもしれませんが、それはいわゆる
退職慰労金(職務執行の対価)としての性格ではなく、贈与的な金銭の授受と
いった性格になるのではないかと想像しています。
2025.07.23(水)【参院選結果】(金子登志雄)
参院選挙が終わりました。事前の予想どおり、自民党、公明党、共産党とい
う古くからの既成政党は概して不振であり、政権党の自民党よりも右寄りの参
政党や日本保守党、また反共の国民民主党が急伸しました。自民党の敗北理由
には旧安倍派支持者が穏健保守の石破政権を見切って急進保守に走ったためか、
あるいは旧安倍派の負の遺産を気の毒にも石破政権が背負わされ石破氏が貧乏
くじを引いてしまったためという2つの見方があるようです。
ところで、昔は政治家になるには、東大を出て官僚になってから与党政治家
になるとか、労組の幹部になってからとか、弁護士になって市民運動をしてか
らとか、それなりに有能でステップを踏まなければ立候補することさえできな
い環境があったのに、SNS時代のいまは目立ちたがり屋が情報発信力のある
政党から立候補すれば努力せずして国会議員にもなれてしまうことを如実に示
す選挙結果でした。この筋道の開拓者はNHK党でしょうが、それだけ現状に
漠然とした不満を持ち、面白そうだという理由だけで既成秩序をぶっこわす方
に投票してしまう方が急増したのだろうと私は推測していますが、皆様の見立
てはいかがですか。
面白いのは、同じ情報発信力のある政党でも、急伸した参政党や日本保守党
などとNHK党との差です。前者は日本人ファーストのイデオロギー色が強く
他を蔑む際にも外国人とか政治家とかの集団を対象にするのに対し、後者は反
斎藤兵庫県知事である議員個人(日本人で特定人)などだった点でしょうか。
具体性においても衝撃度においても後者の方が勝っていますが、ここまでする
と過激すぎてカルト宗教的になり、支援する気にはなれなかったのかNHK党
だけが惨敗し政党要件さえ満たせませんでした。ちなみに、ネット情報による
と、N党立花孝志氏は、兵庫県に引っ越すようですから、兵庫県内の混乱はさ
らに続きそうです。
総じていうと、なんとなく日本は長期混迷社会に突入しはじめた印象です。
よい悪いは別にして自民党による長期支配は、ある意味で中国など権威主義の
国の統治と同様に政治や経済が安定しており、米国との貿易摩擦を起こすほど
の国力を維持することができたわけですが、今後は政治の不安定期、さらに経
済不安定期になり物価高のインフレ混乱社会が進み生活苦から自己ファースト
社会に進むような気がしてなりません。
2025.07.22(火)【行政書士法の改正】(東京・鈴木龍介)
前回、取り上げました社労士法の改正と同じく、先般、閉会となりました第
217回通常国会において、いわゆる議員立法により「行政書士法」が改正さ
れ、令和7(2025)年6月13日に公布されました(令和7年法律65号)。
本改正の概要は、以下のとおりです。
1.使命規定の新設
2.デジタル対応を含む職責の明定
3.特定行政書士の業務範囲の拡大
4.業務制限規定の趣旨の明確化
5.両罰規定の整備
本改正は、令和8(2026)年1月1日からの施行とされています。
~参考~
・参議院議案情報
https://is.gd/lREt3q
・日本行政書士会連合会【会長談話】「行政書士法の一部を改正する法律」
の成立について
https://www.gyosei.or.jp/news/20250606
2025.07.17(木)【日本人ファースト】(金子登志雄)
もうすぐ参院選挙ですね。与党で安定のオールド政党・自公が過半数を割り、
日本人ファーストを主張しSNSを活用する新興勢力が急成長するとの予想で
すが、民主主義を標榜する欧米諸国でも移民問題やパレスティナ人へのイスラ
エルのジェノサイドへの対応をみていると「全ての人は生まれながらにして平
等であり」は最初から建前論に過ぎず、あからさまに本音で動く自国民ファー
ストの政党が力を増しているのは世界的傾向だといえます。
テレビやユーチューブなどのSNSでも、安倍政権時代あたりから、日本す
ごいをテーマとする番組作りが増えたなと感じていましたが、最近は、中国人
や韓国人は電車の中で大声を出すし列に割込みをするなどの礼儀知らずばかり
だ、それらの国の公衆トイレはひどいものだなどという露骨に他国民を蔑む傾
向が増えてきたように感じます。ちなみに、わが国でも私の若い頃は公衆トイ
レなどは使えたものではありませんでした。
いわゆる在日を含め外国人は日本人よりも優遇されているとの主張は根拠の
ないフェイクのようですが、それを聞いても無関心な私などは「あ、そう」と
しか感想はありませんが、「それは許せん」と思うのは正義感の発露というよ
りも、無意識に生活苦の欲求不満のはけ口にしているのではないでしょうか。
強いものが弱い者を蔑むというよりも、弱い者がさらに弱い者を蔑み弱い者同
士で争っているとしか私には思えません。
気になるのは司法書士会でも、この風潮の影響があるのかです。下記につき、
おそらく、排外主義というよりも面倒なことに関わらないほうがよいという判
断だと推測しますが、その判断自体が差別的であり、法律関係の公的団体の姿
勢としては実に情けなく感じています。
https://blog.goo.ne.jp/tks-naito/e/723787ef4cfd880c1698258ad0aef8f1
20日の選挙の日は外国人との共生を主張する政党に投票予定です。
2025.07.16(水)【取下げと委任状】(金子登志雄)
7月1日には取下げを経験いたしました。効力発生時刻である午後3時以前
に申請してしまったことに気づいたからです。電子申請であり、まだ添付書面
も送っておらず、登録免許税も納付前の段階であり、取下げボタンを押して必
要事項を記入し申請しただけです。
取下げはたまにしか経験がなく詳しくありません。書籍精義などで、取下げ
には委任状が必要だと確信していたのですが、登記申請の委任状に「登記申請
の取下げ、登録免許税又は手数料の還付又は再使用証明の手続及びその受領に
関する件」と記載していたので、私には取下げの代理権があるから大丈夫だと
思っていました。しかし、その委任状をまだ法務局に提出していません。
効力発生時刻が到来したので午後3時過ぎに再申請し、委任状等の添付書面
もレターパックで管轄法務局に送付しました。
その到着後2日くらいした日に取下げの完了通知が届きました。再申請で送
った添付書面の中の委任状に取下げ代理権があることで法務局も納得してくれ
たのかなと思いましたが、ふと、最初の申請と再申請とでは申請番号も受付番
号も異なるのに、同一内容の申請だとしても再申請の委任状を最初の申請の取
下げ権限として使えるのかと考えだしてしまいました。
優秀な司法書士仲間との連絡網でご意見拝聴したところ、はじめは意見も出
なかったのですが、徐々に「補正のための取下げの場合は委任状は不要だと登
記研究にある」「不動産登記には委任状が必要だが商業登記では不要だ」とか
「自分は委任状に『取下げ』の受任につき不記載だが、取下げを何度も経験済
みだ」などという体験談が寄せられました。
確かに、補正のための取下げであれば、登記申請代理権の範囲内といえ、本
来の取下げとはいえないでしょう。実務では不動産登記とでは運用が相違する
ようですが、取下げには代理権が必要だという固定した考え方を改めました。
また、登記法には「取下げ」という用語がないことも改めて再発見いたしまし
た。電子申請と取下げにつき、詳細な解説がほしいものです。
2025.07.15(火)【社労士法の改正】(東京・鈴木龍介)
先般、閉会となりました第217回通常国会において、いわゆる議員立法に
より「社会保険労務士(社労士)法」が改正され、令和7(2025)年6月
25日に公布されました(令和7年法律77号)。
本改正の概要は以下のとおりです。
1.社労士の使命に関する規定の新設
2.労務監査に関する業務の明定
3.社労士による裁判所への出頭・陳述に関する規定の整備
4.名称の使用制限に関する類似名称の例示の明記
本改正は、原則として公布の日から施行とされています。
~参考~
・参議院議案情報
https://is.gd/qJt0TJ
・全国社労士会連合会
https://is.gd/LVGQZR
2025.07.14(月)【代表者の住所が不明になるかも】(金子登志雄)
上場会社では代表表取締役の住所を非表示にする例がほとんどだと思います。
少ないですが私の顧客の上場会社では全て非表示で対応しています。証明書類
も上場会社である旨の証明書程度ですから、手間もかかりません。
しかし、住所非表示措置採用後に司法書士が交代した場合は後任司法書士は
意外に苦労するのではないかと想像しています。
例えば、代表取締役の住所が「東京都港区一丁目21番19-201号」で
登記されている場合に住所非表示だと「東京都港区」しか分かりません。この
住所非表示措置を申し出た司法書士であれば申請書の控えを保存しているでし
ょうから、何か登記が必要になった際も申請人欄の代表取締役の住所を「東京
都港区一丁目21番19-201号」とすることができるでしょうが、司法書
士が交代し、初めてこの会社の登記を担当した場合で、この代表者の過去の登
記が履歴事項にも存在しない場合には、会社に住所を尋ねて記載しなければな
りません。その際に「一丁目21番19号」か「一丁目21番19号〇〇マン
ション201号」か「一丁目21番19号201」か会社も分からない場合が
あるはずです。
先月、上場会社の代表者の住所移転にあたり非表示にしましたが、もし私の
パソコンがダウンし、この申請書の控えが消えてなくなれば、私でも非表示部
分がどういう内容だったか分からなくなります。
上場会社では代表取締役が複数人存在する例が少なくありません。私が役員
を務める当社ですら会長と社長の2名います。重任、重任で履歴事項に住所が
残っているので、私が登記から離れても数年間は大丈夫でしょうが、いつか困
る場合もありそうです。まぁ、困った際はあえて推測した住所で申請し、補正
になったら「部屋番号は登記されているが、マンション名は登記されていない
ということですか」くらいは教えてくれると期待していますが、少なくとも自
分が住所非表示を申し出た案件では、こういうみっともないことはしないよう
住所を管理しておきましょう。
2025.07.10(木)【登記所が多忙の主原因は?】(金子登志雄)
いまは商業登記の書き入れ時のためか、登記申請し完了までに1か月程度も
要しているため(東京本局、新宿出張所、渋谷出張所は7月9日申請の完了予
定日が8月8日です)、依頼を受けたらお客様にはその旨を伝えるようにして
います。
https://houmukyoku.moj.go.jp/tokyo/category_00019.html
ほとんどの方が、登記所がいかに多忙でも2週間程度であろうと予想してい
たようで大層驚かれますが、昨日は「なぜ、そんなに遅いのか。代表取締役の
住所非表示措置のせいか」と聞かれました。皆さんは理由について何だとお考
えですか。
私の回答は「確かに、株主リスト、本人確認証明書、住所非表示など次々と
事務負担が増えていますから、それらが原因の1つであることは間違いないと
思いますが、一番大きな理由は、上場会社及びその子会社を中心に取締役の任
期を1年にする会社が増えてきたことだと推測しています」というものでした。
会社法施行で会計監査人の任期が1年のため、上場会社では毎年登記が必要
でしたが、取締役の任期は圧倒的多数の監査役設置会社では旧商法時代のまま
2年にしていたものでした。それが監査等委員会設置会社制度の出現で任期が
1年になり、監査役設置会社も取締役の任期を1年にするところが増え、とう
とう子会社まで任期1年にするようになりました。
これで上場会社が多い大都市で開業している司法書士事務所は商業登記仕事
が増えたため、いまでは商業登記専門事務所を標榜するところも増えました。
会社法施行時の平成18年5月には全国で商業登記のみの司法書士は数人しか
いなかったのにさま変わりです。
2025.07.09(水)【持分の相続承継】(仙台・立花宏)
先日、法務省の登記統計を見たところ、月別の集計が4月まで公表されてい
ました。個人的に手集計してみたところ、今年の4月までの合同会社の設立登
記申請件数の累計は15,221件で、昨年の同時期までの累計14,078と
比べると1100件以上増加していました。約8%の増加です。まだ、1年の
3分の1しか過ぎていませんので、この傾向が続くのかどうかはわかりません
が、今年も合同会社の設立数は増加傾向が続いていると推測いたしました。
参考までに、株式会社の4月までの設立登記申請件数の累計は、34,103
件で、昨年の同時期までの累計33,327件と比べると776件の増加でした。
約2%の増加です。比較してみると、少しですが、合同会社の増加割合の方が
多く、実務における合同会社の重要性がますます増しているといえるでしょう。
合同会社の登記実務の中でも、悩ましいのは、持分の相続に関する登記だと
思います。この点について、拙著(注1)や研究発表(注2)等で、私自身の
考えを発表してまいりました。
たとえば、社員各自が業務執行権を有する合同会社において、(業務執行)
社員が死亡した場合に、複数の相続人が遺産分割協議を行い、特定の相続人が
持分を承継すると定めた場合、当該相続人のみが(業務執行)社員として加入
したという登記をすればよいのかどうかです。この点についての私見による結
論や理由付けについては、拙著等を参考にしていただければ幸いです。
以前から、私見は実務等でどのような評価をされているのだろうと気になっ
ていたのですが、先日、発行された登記研究928号(テイハン)に掲載され
ていた山森航太(東京法務局民事行政部第一法人登記部門首席登記官)「ポイ
ント解説 基礎から考える商業登記実務(第9回)」で、拙著や前記の研究発
表等を参考文献として掲げていただいており、法務局関係者の方からも一定の
評価をいただいているのだろうとありがたく感じました。
山森氏の同論考には、当然ながら、松井・ハンドブックが参考文献に挙げら
れていますし、私が何度も読みこんだ明田川昌幸「合資会社の有限責任社員の
死亡と相続人中の一人のみによる入社登記申請の受否」(『商業登記先例判例
百選』(有斐閣)184頁)も参考資料として記載されていました。
もちろん、そうした文献や資料と同じように評価してくださっているという
わけではないでしょうけれど、そうした文献と並んで拙著等を山森氏の論考に
参考文献として掲げいただけたことは、とても光栄なことだと感じ、これまで
の研究にご褒美をいただいたような気持ちになりました。
これを糧に、これからも研究を深めていこうと思いました。
注1)『商業登記実務から見た合同会社の運営と理論第3版』(中央経済社)
注2)「持分会社の持分相続と登記―合同会社を中心とした検討=」
(旬刊商事法務No.2352)
2025.07.08(火)【外国人土地法】(東京・鈴木龍介)
「外国人土地法」ってご存じでしょうか?
外国人土地法(同法)というのは略称で、正式には「外国人ノ土地ノ所有ニ
関スル法律」(大正14年法律第42号)といい、外国人による日本国内の土地の
取得・利用を制限するための法律で、附則を含め全11箇条で構成されています。
もう少し詳しく見てみますと、日本の国としての安全保障や公共の利益を確
保するため、外国人による土地の取得を一定の場合に制限や禁止できるように
することを目的に、1925年(大正14)年に制定され、翌年の1926(大正15)年
に施行されました。
つまり、国防上必要な区域(例えば、国境地帯や防衛施設周辺)において、
日本に居住しているか否かを問わず、外国人や外国法人が土地を取得すること
を制限・禁止できるというものです。ただし、実際のところは、同法に基づく
政令により対象となる土地を指定するという建付けになっており、第二次世界
大戦後はその政令が廃止され、現在に至っているため、実効性を欠く、いわゆ
る「幽霊法」と評価されています。
近年、外国資本による水源地や自衛隊基地周辺、原発・空港・水源地など重
要インフラ周辺の土地購入が問題視されていることから、同法の再評価や見直
しが議論されています。そのような中、「重要土地等調査法」(令和3年法律
第84号)という類似の目的をもった法律が制定されましたが、諸外国では可能
な事前の取得規制は難しく、事後的な対処しかできないのが実状です。また、
同法は、憲法上の財産権の保護という観点からも、そのままのかたちで運用す
るのは難しいようです。
~参考~
2025年5月5日付日本経済新聞・朝刊23ページ
「そして続く戦後1945→2025「街」③」
2025.07.07(月)【上場会社の取締役会議事録】(金子登志雄)
7月ですが、上場会社の定時株主総会集中日である6月27日に開催した場
合の2週間の登記期限は11日ですので、まだ上場会社からの登記依頼は続い
ています。
即座に登記しない理由は、株主総会議事録の作成は容易なのに、総会後の取
締役会議事録の決議事項が大量で、しかも、出席役員の署名又は記名押印が必
要なため、常勤していない社外役員などの押印に時間を要してしまうためです。
我々司法書士の感覚からすると短期間の申請遅れは過料にもならない運用が
なされているため、期限内の申請にそうこだわる必要はないというものですが、
上場企業が不祥事でも犯すと、新聞などが登記記録を閲覧し「この会社は2週
間の登記期限も守らない違法行為をする会社だ」などと責めたてたりすること
もあるため、上場会社では、こういうことにも神経を使ってしまいます。
社外役員も多い会社では、取締役会議事録などに必ず役員ご本人が記名押印
する方法では時間を要してしまうため、総務部等にハンコを管理してもらい、
議事録の内容をご本人がメール等で確認しオッケーを出したら押印を代行して
行うなどの対策を採用していますが、ハンコ文化の便利なところです。
それはともかく、上場会社の取締役会議事録は数十頁にもなる大部のものが
相変わらず多いです。もちろん、登記事項は代表取締役選定の件だけですから、
何とかしてほしいものですが、管轄登記所が近い場合は、即座の原本還付で、
必要部分だけの写しを提出すればよいので、支障はありませんが、遠方の場合
は郵送で難儀してしまいます。
この点の処理は登記に必要な事項だけにした議事録にする例が多いのですが、
「抄本」などと記載されると「原本ではありません」と白状しているようなも
ので抵抗がありますが、記名押印もなされている限り、登記では受け付けてく
れているようです。
2025.07.03(木)【真夏日の登記所】(金子登志雄)
鈴木さんが定時総会の集中日を話題にしていましたが、その派生効果として
登記申請の集中日が到来することでしょう。
私ごとですが、6月30日にはいつものように通勤時間帯を避けて午後早々
に出勤したところ、机の上に10個くらいのレターパックが置かれており、み
な3月決算会社の登記申請依頼でした。
いつもは近くで買った弁当を食べながら、のんびりとパソコンを開くのです
が、その日に来た申請依頼はその日に処理するのが私のモットーなので、食事
抜きで各社の申請書作成、原本還付のためのコピーなどに励みましたが、取締
役会議事録が電子署名付きであったりで時間を要すものもあり、1社だけ法務
局の営業時間内での申請が間に合いませんでした。どうも、この日が本年の当
事務所の集中日だったようです。
顧客に登記完了予定日は1か月先の7月30日だと伝えたところ、大層驚い
ていましたが、東京の司法書士はもう慣れたことでしょう。
私の記憶によると平成18年5月の会社法施行直後が最も法務局が多忙な時
期だったように思います。会社法施行に伴い職権で登記すべき事項(株券発行
会社とか、取締役会設置会社とか)があったためでした。
当時、私の顧客が自社の登記記録の取締役会設置会社のところに「平成17
年法律第87号第136条の規定により平成18年5月3日登記」とあったの
で、祝日に登記するなどあり得ない、間違いだから直してほしいというので、
法務局に電話してみましたら「祝日出勤し頑張りました。その登記日付に間違
いありません」といわれてしまいました。その会社は本店移転していないので、
いまの登記記録にも掲載されています。
2025.07.02(水)【暑中お見舞い】(島根・根来川弘充)
6月は総会が多い月なので、割と商業登記の申請をする月なのですが、今年
は、いままであまりしたことがない、信託の登記や、支払督促などの裁判業務
を、複数受任しました。
あまりしたことがない業務ほど、いろいろと興味をもってしまいます。知ら
なかったこと、改めて気付いたことがあり、充実感はあるのですが、気がつけ
ば、机に書類が積み重なっていました。他の業務に少し支障が出ているような
気がします。
6月のうちに梅雨が明けました。とても暑く、年々身体が弱くなっている気
もします。不用意なミスがでないよう、気を引き締めて、仕事に向かいたいと
思います。
皆様、お身体御自愛くださいませ。
2025.07.01(火)【上場会社の定時総会2025年】(東京・鈴木龍介)
日本の上場会社については、いわゆる3月決算・6月総会が多数を占めます。
今年(令和7(2025)年)の上場会社の定時株主総会(本年総会)は、先
週(6月23日~6月29日)、開催されたところがほとんどですが(80%
超)、最集中日6月27日(金)で全体の約25%です。
なお、3月期決算会社の定時株主総会の最集中日における集中率は平成7
(1995)年をピークに低下しており、コーポレートガバナンス・コードの
制定(平成27(2015)年6月)後は一段と低い水準で推移しています。
さて、去る6月24日(火)、私が社外取締役を務めております上場会社の
本年総会が開催され、株主提案もなく、すべての会社提案の議案が可決承認さ
れました。ご参加いただきました株主、そして関係者の皆様方に、この場をお
借りして御礼申し上げます。
一方、司法書士としては、これから本年総会後の登記が佳境を迎えますので、
しっかりと気を引き締め、取り組んでいきたいと思います。
~参考~
日本取引所グループ「3月期決算会社株主総会情報」
https://www.jpx.co.jp/listing/event-schedules/shareholders-mtg/
2025.06.30(月)【連件申請と一括申請の併存】(金子登志雄)
6月下旬は登記事項を決議する定時株主総会が多いため、東京法務局では登
記の完了までに1か月程度も要していますが、皆様の地域ではいかがですか。
さて、この定時株主総会では10月1日付け組織再編を決議することも多い
ためか、組織再編の質問を受ける機会が増えました。とくに連件申請との一括
申請の可否についてです。今日はこの話題にしました。
A社が存続会社となってB社を吸収合併する際はAの登記申請とBの登記申
請を同時にしなければなりません。登記実務上、1/2申請(A分)、2/2
申請(B社分)と記載し連件で申請します。2つの同時申請のうち1番め、2
番めというわけです。
この場合に、1/2申請と商号変更、役員変更などの一括申請が問題ないこ
とはよく知られています。無対価合併と目的変更の一括申請であれば登録免許
税は3万円で済みますので、間違わないようご注意ください。
質問者が悩むのは、会社分割の2/2申請と他の登記との一括申請です。例
えば、D社が分割会社でC社が承継会社の吸収分割の際に、D社が分割直前に
代表取締役を交代させた際に、2/2申請でD社の吸収分割と代表変更を一括
申請することができるかですが、CとDが同一管轄であれば、他の一括申請と
同様に問題なく可能です。実例ではDの商号の変更事例が多いのですが、分割
と無関係な変更登記でも一括申請が可能です。実例は少ないのですが、新設分
割のケースでも同じです。
2025.06.26(木)【取締役任期1年会社の役員変更】(金子登志雄)
今の時期は日本で一番多い3月決算会社の定時株主総会最盛期です。そのた
め、「役員変更につき議事録案を送るのでチェックしてほしい」という依頼が
毎日のように続いています。
ありがたいことですが、メールの添付ファイルに定款が添えられていること
はまずないため、過去に定款をもらっているかなどを調べ、任期を確認してい
ますが、取締役の任期が2年と決まっていた旧商法時代には、このようなこと
をする必要がありませんでした。会社法施行により、非公開会社であれば任期
を10年まで伸長することができるようになったため、この会社の取締役の任
期は何年かを確認しなければならなくなったわけです。選択の幅が広がりパタ
ーン化されていないので、商業登記を苦手とする人が増えた理由でもあります。
本欄で何度も書いてきましたが、間違いやすいのは取締役の任期1年会社で
す。例えば、ネット検索によると、同じ建設会社でも上場会社の清水建設の任
期は「取締役の任期は、選任後1年以内に終了する最終の事業年度に関する定
時株主総会終結の時までとする。」だけですが、大成建設はこれに2項があり
「補欠又は増員として選任された取締役の任期は、在任取締役の任期の満了す
る時までとする。」がついています。
この結果、大成建設では事業年度の初日である4月1日付けで選任された取
締役はその年の6月定時株主総会の終結で任期切れしますが、清水建設では翌
年6月の定時株主総会の終結まで任期があり、取締役全員の任期が同時に満了
するわけではありません。
上場会社では大勢の人が総会招集通知をチェックするため任期計算を間違う
ことはまず考えられませんが、子会社も取締役の任期につき親会社と同じ定款
内容だとしたら、子会社のほうで勘違い運用しているところが少なくないはず
です。私はこれでしばしば任期計算の勘違いを発見していますが、議事録は修
正せずに定款を添付し「この被選任者は定款〇〇条により、いまだ任期中でし
たので重任登記は申請いたしません」とメモ書きして対応しています。
2025.06.25(水)【種類持分】(仙台・立花宏)
18日(水)、19日(木)の本欄で、金子先生が種類株式関係についての
コラムを掲載されていらっしゃいました。
私は、会社の中でも合同会社について興味があるので、どうしても合同会社
をはじめとした持分会社に関連させていろいろと考えてしまいます。
株式会社は、剰余金の配当その他の会社108条1項に掲げる事項について
内容の異なる2以上の種類の株式を発行することができ、当該定款の定めがあ
る会社を種類株式発行会社といいます。そして、種類株式発行会社におけるあ
る種類の株式の株主を種類株主といいます(会社法2条13号、14号)。
たとえば、剰余金について優先的な定めのある種類株式(以下,「優先株式」
という。)を保有している種類株主のAさんが当該株式を適法にBさんに譲渡
すると、Bさんは優先株式の種類株主となり、剰余金については種類株式の優
先的な定めに基づき配当を受けることになります。
ところで、合同会社をはじめとした持分会社では、こうした優先株式のよう
なものを設けることができるでしょうか。
合資会社では、無限責任社員と有限責任社員が法定されており、会社の中に
責任の異なる社員が存在します。また、持分会社では、定款で業務執行社員を
定めることができ、この場合、会社の中に、業務を執行する種類の社員と業務
執行権が制限された種類の社員が存在することになります(会社法590条、
591条)。
さらに、持分会社では、損益の分配や残余財産の分配は、原則として出資の
価額に応じて行われますが、定款で別段の定めをすることが可能です(会社法
622条、666条)。
そうすると、持分会社でも種類株式のような種類持分を存在させるようなこ
とも可能なようにも思えます。
しかし、これらは、保有する持分によって他の社員と異なる扱いがされるわ
けではなく、あくまでも、社員個人に対しての定めであり、種類持分というよ
りは、株式会社の株主に関する属人的な定め(会社法109条)のようなもの
だといえると思います。
たとえば、社員AB(出資額は同額とする)の2名の合同会社で、損益の分
配については、A7:B3の割合と定款に定められていた場合に、AがCに自
己の持分を適法に譲渡した場合であっても、Cさんが当然に7割の損益の分配
を受けられるわけではありません。前記の定めは、あくまでも、社員がAB2
名の場合の損益の分配の割合であり、Aさんが多く分配を受けるという定款規
定まで持分を譲り受けたCさんが引き継ぐわけではないからです。
持分譲渡がなされた場合に、損益の分配をC7:B3の割合とするためには、
あらためてその旨を定款に定める必要があると考えます。
また、種類株式発行会社の場合に、優先株式を有するAさんが普通株式の譲
渡を受けた場合には、Aさんは優先株主であると同時に普通株主となり、2つ
の種類株主の地位が併存することになります。
それに対して、合同会社において、損益の分配について優先的な地位にある
Aさんが、劣後的な地位にあるBさんから持分譲渡を受けても、Aさんはその
2つの地位を併せ持ち、2つの種類の社員の地位が併存することにはならない
でしょう。持分単一主義の持分会社においては、社員が2つの持分を保有する
という考え方をしませんし、このような場合には、あらためて、損益の分配に
ついて定款に定めることになるはずだからです。
ただし、広範な定款自治が認められる持分会社においては、定め方によって
は種類株式のような種類持分を定めることも可能だ、という考え方もあり得る
のかもしれません。
実務上、そうしたニーズがあるのかどうかは、わかりませんが、こうした部
分はまだまだ、あまり、議論がなされていない分野のように感じています。
2025.06.24(火)【日司連 第90回定時総会】(東京・鈴木龍介)
先週の6月19日(木)・20日(金)の2日間にわたり日本司法書士会連
合会(日司連)第90回定時総会(本総会)が東京・新宿住友ホールで開催さ
れました。
本総会は、初日の来賓挨拶等のセレモニーにはじまり、事業報告を経た後、
役員改選を含む組合計23件の議案が提出されましたが、すべての議案が異議
なく可決承認されました。なお、役員改選につきましては、会長を含むすべて
の役職で定員どおりの立候補者であったことから、選挙はなく、私も3期目の
副会長に選任されました。ご支援等いただきました皆様方にはこの場を借りて、
御礼申し上げます。
日司連は、本総会を経て、新執行部による、あらたな1年のスタートを切る
ことになります。副会長として司法書士制度の発展のため会務に取り組む所存
ですので、引き続きのご理解とご支援のほど、よろしくお願いいたします。
あらためまして組織員ほか関係者のみなさん、2日間にわたりお疲れさまで
した&ありがとうございました。
2025.06.23(月)【日本製鉄のUSスチール買収問題】(金子登志雄)
米国の政権に妨害されていた日本製鉄のUSスチール買収問題が終息したた
めか、さまざまニュースで取り上げられていますが、たまたま目にした次の記
事を読んでみました。黄金株のことも知りたかったからです(日鉄側の提案だ
とは知りませんでした)。
https://is.gd/lvdZDz
この中の「米国が中国に一番負けているものは製造業だ。当初は1920年代の
ように高関税で復活できるという考え方もあったと思うが、今は技術者がおら
ず、関税だけでは復活しない。最後は悩まれたと思うが、日鉄の力を活用する
ことが米国の鉄鋼業の再生につながるという判断をしたのだと思う」との日鉄
橋本会長の話が説得的であり、私の信頼する識者はみなこの考え方でした。
つまり、製造業について米国は日本に負け、得意分野の金融や情報技術で世
界を支配するようになると同時に、日本に対抗するため中国の製造業を育てた
が、いまや中国が世界の製造業の中心になってしまったため、日本の製造技術
の力を借りてでも米国の製造業を復権させるのが正しい道だ、にもかかわらず、
USスチール買収を妨害するのでは中国が喜ぶだけだというのが私の信頼する
識者(中国通の遠藤誉氏など)の意見でしたから、トランプさんもそれに気づ
いたのでしょう。いまや米国には優秀な物作り技術者はいなくなっています。
橋本会長発言の「私が45年前に新日鉄に入社した時は世界一の鉄鋼メーカー
だったが、順位をどんどん下げていた。もう一度世界で復権する、そういうビ
ジョンを持つことで従業員も頑張れる」も面白く受け止めました。
というのは、昔は「鉄は国家なり」といわれたくらい新日鉄の力が強かった
のです。そのためか、いまでも優秀な学生が就職先としてこの会社を選ぶため、
必然的に経営陣も優秀な方々で構成されるようになり、米国を説得することが
できたのでしょう。私の大学ゼミの後輩石破君にも優秀さをみせてトランプ氏
を説得してほしいと期待しておきましょう。
2025.06.19(木)【会322条の「損害を及ぼすおそれ」】(金子登志雄)
昨日の延長ですが普通株式と完全無議決権株式を発行している種類株式発行
会社において、普通株式の発行可能種類株式総数の増加について完全無議決権
株主の種類株主総会が必要でしょうか。
完全無議決権株式ですから、普通株式が増加しても議決権の面で不利になる
ことはありませんが、剰余金の配当や残余財産の分配のシェアの点で不利益に
なるため、完全無議決権株式の種類株主総会が必要だというのが一般的なバラ
ンス感覚でしょう。
ところが、仙台の立花さんに存在を教わったのですが、逐条解説会社法4巻
205頁には「無議決権株の株主は、将来の議決権株式の発行によって、配当
・残余財産に関する権利の面でも、議決権の希釈化の面でも、種類株主問の割
合的関係に変動を受けるとはいえないから、議決権株式の発行可能種類株式総
数を増加するには、無議決権株の株主の種類株主総会による承認決議を要しな
いと考える」とありました。
主張の根拠については十分な説明がありませんでしたが、配当や残余財産に
関して発言権(議決権)もないのに、発行可能種類株式総数の定款変更につい
てだけ拒否権という議決権を持たせるかのような解釈は行き過ぎだとのお考え
でしょうか。そうであれば傾聴に値するバランス感覚だと思いました。
会社法322条の「損害を及ぼすおそれ」の判定は難問です。
2025.06.18(水)【発行可能種類株式総数の増加と種類株主総会】
(金子登志雄)
発行可能種類株式総数の増加の定款変更により、ある種類の株式の種類株主
に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該行為は、当該種類の株式の種類株主
を構成員とする種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じないと会社法
322条1項1号に規定されていますが、これはどういう意味でしょうか。会
社法勉強の初期にはみな悩む部分です。
会社法322条は種類株式発行会社において、ある行為により種類株式間に
不平等が生じる場合は不利益を受ける種類株主の種類株主総会による承認を求
めた規定ですが、募集株式の発行のうち株主割当は1項4号に不平等行為とし
て列挙されているのに、第三者割当による募集株式の発行は不平等行為とされ
ていません。
これは株主割当は株主全員を平等に扱う株式募集行為であり、通常1株の時
価より著しく安い価額で発行することが多いため、種類株式発行会社において
特定の種類株式だけにこれをされたら、株主割当をされない種類株式を不当に
扱うことになるからです。
これに対して、第三者割当であれば時価発行されますし(低廉発行なら差止
請求という防衛手段もある)、それ以前にそれが発行可能種類株式総数の枠内
の発行であれば、発行可能種類株式総数の増加の際の定款変更に賛同しておき
ながら、募集株式の発行につき拒否してはならないからです。
したがって、これから第三者割当をしようと、ある種類株式の発行可能種類
株式総数の増加を議題にする場合は、不利益を受けるおそれがある種類株主の
種類株主総会が必要だということになります。
2025.06.17(火)【「登記情報連携」とは?】(東京・鈴木龍介)
「登記情報連携」という仕組みをご存じでしょうか?
「登記情報連携」とは、法務省が保有する不動産や会社・法人の登記情報を
国や地方公共団体等の行政機関が直接かつ直ちに確認することができる仕組み
ですが、登記事項証明書の添付省略と公用請求代替の2つの施策で構成されて
います。
前者の添付省略については、登記事項証明書の添付が求められる行政手続で
行政機関が登記情報連携システムを利用することにより、申請者等は登記事項
証明書を取得、添付する必要がなくなります。
後者の公用請求については、行政機関が職務上、登記事項証明書を法務局に
請求していた業務――例えば、空き家の所有者特定――で登記情報連携を利用
することにより、職員がその場で必要な情報を確認できるようになります。ち
なみに、登記事項証明書の発行件数のうち約4割(年間約3,300万件)は行政機
関による公用請求となっています。
いずれも法務省の「登記情報連携システム」にアクセスし、登記情報を行政
機関の職員の端末からオンライン上で確認等することによって、国民の負担軽
減と国・地方の行政機関の業務効率化を図れるものといえます。なお、法務局
においても登記事項証明書の発行事務の負担が軽減されることになります。
法務省は、今年度からは地方公共団体における登記情報連携の利用を大幅に
拡大する方針を示し、4月には最新の申請様式を公開し、希望するすべての地
方公共団体からの登録申請を受け付けています。
シンプルですが、即効性のある、WIN(国民)-WIN(行政機関)-WIN(法務省
=法務局)の取組みだと思います。
~参考~
・法務省「登記情報連携の拡大について」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00367.html
2025.06.16(月)【仮会計監査人選任方法の調べ方】(金子登志雄)
会計監査人には権利義務者制度がなく「会計監査人が欠けた場合又は定款で
定めた会計監査人の員数が欠けた場合において、遅滞なく会計監査人が選任さ
れないときは、監査役は、一時会計監査人の職務を行うべき者を選任しなけれ
ばならない」とされています(334条4項)。この文言から「一時会計監査
人」といわれることが多いのですが、この一時は副詞であり、登記の際は仮会
計監査人と表記されます。
この選任手続にあたり会社法339条1項の「監査役会の決議は、監査役の
過半数をもって行う」が適用されるはずなのに、江頭株式会社法9版653頁
にも、弥永リーガルマインド15版169頁にも、中央経済社逐条解説会社法
4巻初版354頁にも監査役全員の同意が必要だとあるが、これはどういうこ
とだと、勉強熱心な司法書士から質問されました。
私も質問者と同意見でしたが、手持ちの資料では不明確だったため、「ご意
見のとおりであり、学者見解だからといって気にしなくてよい。何か分かった
ら連絡します」と返事をしておきました。
そこで、上場会社実務に詳しい方に問い合わせたところ、あっさりと「実務
では全員一致で決議するのが通常だが、日本監査役協会の監査役会規則(ひな
型)でも、監査役の過半数で決議することとなっている」との回答でした。
https://www.kansa.or.jp/wp-content/uploads/2022/08/el001_220801_8b.pdf
司法書士である私には、日本監査役協会の監査役会規則を調べようという発
想さえ湧かなかったため、やはり異業種交流(?)は重要だなと思いました。
それにしても学者先生には監査役の全員の同意が必要だというのなら、その根
拠を示すことと、会社法339条1項との関係についても論評せよといいたく
なりました。ちなみに、仮会計監査人の解任については会社法340条2項が
準用され監査役全員の同意が必要です。
2025.06.12(木)【新株予約権の割当日と募集株式の払込期日】
(金子登志雄)
本欄月曜日の延長ですが、総数引受契約によらず、申込み・割当て方式だと
1日で全手続が終了しません。募集株式では204条3項に「(払込期日)の
前日までに、申込者に対し、当該申込者に割り当てる募集株式の数を通知しな
ければならない」、募集新株予約権では243条3項に「割当日の前日までに、
申込者に対し、当該申込者に割り当てる募集新株予約権の数を通知しなければ
ならない」とあるからです。
もうお分かりでしょうが、募集株式の払込期日と募集新株予約権の割当日は
その日に株主(209条)あるいは新株予約権者(245条)になる日として
共通の意義があります。
なぜこういう差を設けたかというと、株式は払込期日までに払込みしないと
株主にもなれないが(209条1項)、新株予約権はストックオプション目的
の無償発行が多いから払込期日を基準にできないからです。有償新株予約権の
場合は割当日に新株予約権者になれるが払込期日までに払い込まないと権利行
使ができず(246条3項)、その結果として権利が消滅します(287条)。
2025.06.11(水)【業務執行社員の報酬-その2-】(仙台・立花宏)
前回、業務執行社員に対して業務執行の対価(報酬等)を支払うには、定款
に規定が必要だという内容を書きました。これを読んでくださった知り合いか
ら、定款の記載は不要だという資料(注1)があるというご指摘をいただきま
した。
その文献によれば、要約すれば、持分会社の業務執行社員には、委任に関す
る民法648条の規定が準用されており(会社法593条4項)、業務執行社
員は、合同会社と任用契約を締結するため、その契約内容として、報酬の特約
をすることは当然に認められると説明していました。そして、定款に定めを設
けることも“できる(会社法593条5項)”ということも記載してありまし
た。
どうやら特約は定款以外でも可能という見解もあるようです。ただ、同書が
その根拠としているコンメンタール(注2)の記載は、任用契約の内容として
報酬の特約をすることは当然に認められるとは書いてありますが、その前段で、
株式会社のことを記載しており、株式会社の取締役の報酬は、会社とその取締
役との間の任用契約の内容であり、この決定は業務執行に含まれるから、本来
は取締役(会)が決定できるけれど、会社・株主利益を害する危険が高いので、
定款又は株主総会の決議を要するとしたと記載したうえで、それに対して、持
分会社にはそうした手続的規制がないという文脈で記載しているようです。つ
まり、コンメンタールに書いてある内容は、定款に、「報酬を支給する」とい
った規定があること(具体的な額等の定めはない)を前提に、任用契約におけ
る報酬額等の決定は、株式会社と異なり、業務の決定でできるということでは
ないかと思いました(ただし、利益相反取引に該当する)。
個人的には、会社法593条4項で準用している民法648条では、特約が
なければ報酬を請求できない旨を規定し、会社法593条5項で、同593条
4項(委任の規定の準用)については、”定款“で別段の定めをすることを妨
げないとあるのですから、報酬特約を設ける場合は、定款で定める必要がある
と読むのが素直なのではないかと思いました。
前記文献が根拠としているコンメンタール149頁でも、「会社法における
持分会社の業務執行社員には、定款に別段の定めがある場合に、報酬請求権が
発生するものとされている」としています。また、前回、参考文献にあげた江
頭先生のモデル定款の本でも、業務執行社員の報酬は定款に定めが必要という
前提で記載されているように思います。
合同会社をはじめとした持分会社の実務については、このように、まだまだ、
解釈が分かれているなど、はっきりしない部分も少なくないのかもしれません。
ただ、個人的には、そうした現状を踏まえつつ、実務上は、業務執行社員に対
する報酬は、支給を可能とする規定を定款に設けたたうえで支払った方が無難
なのだろうと思いました。
注1)加藤政也編『株式会社との対比でみる合同会社の法務・登記・税務』
(新日本法規)152ページ
注2)神田秀樹編『会社法コンメンタール14 持分会社【1】』
(商事法務)150頁
2025.06.10(火)【四国ブロック会定時総会】(東京・鈴木龍介)
前回に続き、いわゆるブロック会の定時総会関連です。
去る6月7日(土)に日本司法書士会連合会(日司連)四国ブロック会(四
ブロ会)の令和7年定時総会(本総会)がリーガホテルゼスト高松(香川県高
松市)で開催され、私も日司連副会長として総会から臨席させていただきまし
た。
本総会の目的事項のうち決議事項については、すべて異議なく可決承認され
ました。協議のパートでは、私もいくつかの事項について日司連の立場で発言
をさせていただきました。その後、表彰等のセレモニーが行われ、盛会のうち
閉会となりました。
夕刻からは懇親会が開催され、そちらにも出席させていただき、四ブロック
会の多くのみなさんと懇親を深めることができました。二次会にも参加しまし
て、さいごは讃岐うどんで〆め、翌日、帰京しました。
四ブロック会の執行部ほか関係者のみなさん、お疲れさま&ありがとうござ
いました。
2025.06.09(月)【総数引受契約の総数とは】(金子登志雄)
昨日8日のテレビニュースは元プロ野球巨人軍監督の長嶋茂雄氏の葬儀が中
心でした。サッカーよりも野球という私の世代からいえば、子供の頃から、巨
人ファンの多い関東地方では、プロレスラーの力道山と並んで国民的な英雄だ
ったといえます。ご冥福を祈らざるを得ません。
さて、募集株式の発行で 募集事項である「募集株式の数1000株」とあ
ったら、この総数引受は誰でも1000株全部が引き受けられることだと思っ
てしまいますし、インターネット上での説明もそうなっていますが、実際には
そうに限りません。
会社法199条1項によると、募集株式とは、当該募集に応じてこれらの株
式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる株式であり(募集新株予約権
なら238条)、引受けの申込みもない段階での割当て予定の上限である数を
含みません。そのため、新株予約権の発行要綱に下記のとおり「上記総数は割
当予定個数であり、新株予約権の引受けの申込みの数の合計が上記個数に満た
ない場合には、当該申込み数の合計をもって割り当てる新株予約権の総数とす
る」と断り書きする例が少なくない状況です。募集株式でも考え方は同じはず
です。
https://www.matsui.co.jp/company/press/pdf/pr240709.pdf
こうしてみると募集株式の場合の総数引受とは申し込んで割り当てられたら
必ず払込みまで進むと約束したものだと感じませんか。
この総数引受は一人ではなく複数人での引受けも含みますが、例えば5人で
引き受けたのに1人脱落したら、総数引受全部が無に帰するのかというと、5
人を1人とみれば、1000株を引き受けたけど200株については支払いが
できなかったというのと同様に、その分だけの失権で済むようですが、支払い
した4人の中には「え、あの人も出資するというので安心して応じたのに話が
違うじゃないか」と錯誤を主張する人も出てきそうです。こういう事例に遭遇
したら、のちのちトラブルが発生しないかと、よく確認することだと思ってい
ます。
2025.06.05(木)【6月は定時株主総会のピーク月】(金子登志雄)
多くの会社の定款に「当会社の定時株主総会は、毎事業年度末日の翌日から
3か月以内に招集し」と定めてあるため、3月決算会社の大多数がこの6月に
定時株主総会を開催しますが、幸いにも、上場会社だけでなく、その子会社を
も取締役の任期を1年にする傾向が増えたため、役員改選時期でもあるため、
商業登記専門の司法書士にとっては恒例の書き入れ時の到来です。
会社法296条1項によれば「定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の
時期に招集しなければならない」とあるだけですから、会社法上は事業年度の
終了が3月末日であろうと定時株主総会を6月中に開催する必要はないのです
が、定款に「毎事業年度末日の最終の株主名簿に記載された議決権を有する株
主をもって、その事業年度に関する定時株主総会において権利を行使すること
ができる株主とする」と基準日を定め、基準日株主が行使することができる権
利は基準日から3箇月以内に行使するものに限られるため(会124条2項)、
3月決算であれば6月30日までに定時株主総会を開催しなければならないわ
けです(大震災などがあった場合を除きます)。
しかし、定款にそう定めても法人税の申告が事業年度終了後2か月以内とさ
れているため、5月中に計算書類が確定したとして税務申告をする会社が少な
くありません。
とすると6月に定時株主総会を開催し計算書類を承認し役員の任期満了改選
決議をするのは違法ではないかと不安になる方も多いでしょうが、ご心配なく。
問題は6月の定時株主総会が違法なのではなく、定時株主総会も済んでいない
5月の確定申告のほうが無効ではないかです。
もっとも、これにつき、実質重視の税務当局は問題にしていないようですし、
こういう例の多い日本社会の実情からして、株主総会の承認を経ていない計算
書類に基づいて確定申告が行われたからといって、その確定申告が無効になる
と解するのは相当でないという下級審判例があります。赤信号、みんなで渡れ
ば怖くないの勝利かもしれません。
2025.06.04(水)【米の価格高騰に思うこと】(島根・根来川弘充)
お米の価格が高騰しています。
まさか島根県で、米の価格が高すぎるという事態がおこるとは、数年前まで
想像もできませんでした。
これを気に、稲作に注目があつまり、農業への関心が高まることを期待した
いと思います。
お米が地域の基幹産業になれば、わが県、我が町の経済は活性化し、明るい
未来が見えてきます。
私が知っている中小企業の社長の多くが、人材確保に大変困っておられます。
確保が急速に困難になっている理由は、都会との賃金格差です。県内の高校で
は、いままで信じられない好条件での都会からの企業募集が増えているという
ことです。
賃金が例え不利だとしても、地元の発展に貢献しようとする若者の就職を、
県内の学校には、積極的に評価してほしいのですが、現実はそうでもなさそう
です。
今回の米の価格高騰が、地域経済の強さにつながり、若者の県外流出の歯止
めに少しでもなってほしいと思います。
2025.06.03(火)【関ブロ 定時総会2025】(東京・鈴木龍介)
司法書士は、事務所の所在地をベースに司法書士会(単位会)に入会しなけ
ればなりません。それらの単位会を構成員とする全国的な組織として日本司法
書士会連合会(日司連)があります。
そして、日司連とは別に管区の法務局(たとえば東京法務局)をベースに全
国を8つのブロックに分け、それぞれのエリアにある単位会と、その会員(司
法書士)で構成される「ブロック司法書士会協議会」(ブロック会/名称はブ
ロックによっては違うものもあります。)が設けられています。
ブロック会は、日司連や単位会と異なり、法人格のない比較的ゆるやかな組
織といえます。ちなみに東京法務局管内である関東エリアは「関東ブロック司
法書士会協議会」(関ブロ)ということで、東京・神奈川・埼玉・千葉・茨城
・栃木・群馬・静岡・山梨・長野・新潟の11単位会で構成される最大規模の
ブロック会です。
関ブロの令和7年(第69回)定時総会および日司連総会代議員会が去る5
月31日(土)に新横浜プリンスホテルで開催されました。関ブロの場合、構
成される単位会の持回りで、今年度は神奈川県司法書士会が当番でした。
私は本総会自体の組織員ではありませんが、日司連役員(副会長)として総
会・代議員会後の懇親会から出席(来賓)させていただきました。懇親会では、
今年が単位会の役員改選期ということもあり、初めてお目にかかる方も多く、
有意義なひと時でした。
関ブロの執行部、組織員ほか関係者のみなさん、お疲れさまでした&ありが
とうございました。
2025.06.02(月)【本籍について】(金子登志雄)
デジタル化の推進のためか、戸籍の氏名にフリガナが記載されるようになり
ました。
https://www.moj.go.jp/MINJI/furigana/index.html
いずれ本籍地の役所から、この読み方でよいかという通知が来るようですが、
役所は、例えば「幸子」につき、ユキコとして通知を発するのか、サチコとし
て発するのか、どうするのでしょうか。中には役所も読めない名前もありそう
です。
https://ranking.goo.ne.jp/column/6010/ranking/52086/
氏の場合でも、例えば「東海林」ならショウジさんや、トウカイリンさんが
いますし、釼持さんも、地域によってケンモツさんであったり、ケンモチさん
になります。
この流れからすると、いずれ会社や法人の登記記録にもフリガナが記載され
るようになりそうです。株式会社ABにつき、フリガナでエービーにしたら、
フリガナでエイビーで検索しても出てこない場合も生じそうです。
ところで、本籍制度ですが、婚姻と同時に夫婦で新戸籍を作成するため親の
戸籍から除籍されますが、その際に、どこの地を本籍地にしてもかまいません。
夫婦間の力関係で決まるのでしょうが、夫婦仲良く平等を重視するといずれか
のルーツとは無関係な地を選択することも多いのでしょう。その結果、日本で
一番多い本籍地は皇居(東京都千代田区千代田1番)です。大阪方面では大阪
城が本籍地として人気だそうです。
わが夫婦の場合は、私が独身の34歳の際に親からの自立の意味で親の本籍
と同じ場所に分籍し単独で独立戸籍を作成していたため、婚姻の際に妻には本
籍地選びの権利がありませんでした。いわゆる入籍の形式だったため、いまだ
に嫌味をいわれています。
2025.05.29(木)【特例有限会社は株式発行会社なのに】(金子登志雄)
代表取締役の住所非表示は特例有限会社には適用されません。当然ですよね、
特例有限会社の代表取締役には住所が記載されないのですから……。つい先日、
取締役2名、代表取締役1名の特例有限会社で代表取締役でない取締役が死亡
したので代表取締役の登記につき「取締役が1名となったため抹消」を登記し
ました。取締役が1名のときは代表取締役は登記されないというのも特例有限
会社の特徴ですね。
特例有限会社で思い出しましたが、親しい税理士さんから顧客がグループ内
の株式会社や特例有限会社で共同株式移転したいというので、相談にのってほ
しいというので、はい、はいと答えていましたが、いざたたき台として共同株
式移転計画案でも作成しようかと思い、動き出した瞬間に「あ、特例有限は株
式移転も株式交換もできないのだ」(整備法38条)と気づきました。
組織再編のプロを自認しているのに情けない限りですが、著作活動などに従
事している際は頭脳が活発に活動するのに、そうでないときは特例有限会社も
株式発行会社だから株式を出資する株式移転は当然に可能だと無意識に感じて
しまっていたようです。特例有限会社はいずれ消え去るように新設不可や組織
再編に制限を設けているのでした(これを私は「座敷牢に入れられた株式会社」
と表現しています)。
同じようなことは皆さんもありませんか。株式会社の代表清算人の就任承諾
書には印鑑証明書も不要なのに必要だと思い込んでいることや住所非表示は代
表清算人にも適用されるのに、適用されないと思い込んでしまうなどです。
2025.05.28(水)【業務執行社員の報酬】(仙台・立花宏)
合同会社では、原則として、社員が各自業務執行権を有し、定款で特定の社
員を業務執行社員と定めれば、その他の社員の業務執行権が制限されます。
いずれの場合であっても、合同会社は、(業務を執行する)社員に対し、業
務執行の対価を支払う場合があります。では、この場合には、どのような手続
が必要でしょうか。
比較として、株式会社が取締役に報酬を支払う場合は、会社法に、株主総会
の決議によって定める旨の規定があります(会社法361条)。それに対し、
合同会社をはじめとした持分会社には、会社法にはそうした規定が設けられて
いないので悩ましく感じます。
しかし、業務を執行する社員と持分会社との関係については、委任の規定
(民法646~650条)が準用されています。そのうち、民法648条1項
では、受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができ
ないとされています。よって、業務を執行する社員も、特約がなければ報酬を
請求することができないということになります。
では、この特約はどのような形で締結するのでしょうか。
比較として、民法上の組合の場合について考えてみます。民法上の組合では、
組合契約の定めるところにより、業務の執行を1人又は数人の組合員(又は第
三者)に委任することができます。もっとも、組合契約で特定の組合員を業務
執行者と定めた場合も、組合契約のほかに委任契約があるのではなく、組合契
約の効果として当然に業務執行者となります(注1)。そのため、報酬の特約
は組合契約の特約ということになるのだと思います。つまり、報酬特約は組合
契約に定める必要があるということです。
これを持分会社に当てはめると、定款に報酬の特約の定めが必要ということ
になります(注2)。
定め方としては、社員ごとの固定額や算定方法を定める方法のほか、報酬を
支給することができる旨を定め、具体的な報酬額等は一定の社員の一致により
決定するという方法も可能だと考えます。ただし、この場合は、利益相反取引
(会社法595条)に該当すると解釈されているようです。そのため、書籍等
に掲載されている定款例等では、報酬支給の対象となる社員以外の社員の過半
数の承認を受けなければならない、といった規定を設けているものがあるよう
です(注3)。
ただし、利益相反取引の承認には、定款に別段の定めをすることも可能です
から(会社法595条ただし書)、必要であれば、他の定め方も可能なのだろ
うと思います。
注1)我妻榮ほか『我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権
【第8版】』(日本評論社)1411頁
注2)神田秀樹『会社法コンメンタール14 持分会社【1】』
(商事法務)149頁
注3)神﨑満治郎『5つの定款モデルで自由自在 合同会社設立・運営の
すべて第2版』(中央経済社)61頁、江頭憲治郎編『合同会社の
モデル定款-利用目的別8類型-』(商事法務)42頁等
2025.05.27(火)【日司連副会長 立候補】(東京・鈴木龍介)
現在、私は日本司法書士会連合会(日司連)の副会長を務めておりますが、
来る6月19・20日の定時総会をもって任期満了となります。
次期どうするかについて、関係者とも相談等をした結果、日司連の副会長に
立候補することといたしました。
これまでの4年間の経験をベースに、選択と集中をもって、日司連が対応す
べき課題に対し、「為すべきことを、為すべき時に、為すべき者が」を旨とし
て、着実に歩みを進めていきたいと思っています。
以下は私の所信、経歴になりますので、ご高覧いただけますと幸いです。
(所信ページ)
https://is.gd/sCSRj8
ちなみに副会長の立候補枠の定員は3人でして、選挙の投票(電子投票)は
定時総会の1日目である6月19日で、開票は2日目である翌日となります。
関係各位のご支援のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
2025.05.26(月)【日司連ネットの住所非表示解説】(金子登志雄)
遅ればせながら、仲間内で話題になったので、日司連ネット内にある「代表
取締役等住所非表示措置に関するQ&Aについて(実践編)」を拝見しました。
こういう資料は法務省商事課にも内容をチェックしてもらっているでしょうか
ら、信頼に値する内容であるため、皆様もぜひご覧ください。
「代表取締役等の氏名及び住所が記載されている市町村長等による証明書」
につき法務省のホームページ上の説明では運転免許証やマイナンバーカードの
写し(本人の原本証明付)をも含むのか不明確でしたが、肯定されていました
(GⅢ-22)。
また、「登記の申請を受任した資格者代理人が犯罪による収益の移転防止に
関する法律の規定に基づき確認を行った実質的支配者の本人特定事項に関する
記録の写し」につき、補助者の確認を含むのか不明でしたが、これも肯定され
ていました(GⅢ-22)。
仲間内で話題になったのは、印鑑証明書や住民票で「一丁目1番1号ABC
マンション101号室」とあっても登記申請では「一丁目1番1号」の登記が
許されるのに、これで住所非表示措置を申し出る際は住所不一致と扱われるこ
とでした(GⅢ-23)。住所非表示制度においては、登記記録上の住所適格
と制度趣旨が異なり郵便物が確実に届くことが求められてためでしょうか。
2025.05.21(水)【招集通知期間短縮の同意書】(金子登志雄)
例えば5月21日の本日が定時株主総会の日であり、全取締役が重任し、直
ちに取締役会を開催し代表取締役を再選させたとします。
この取締役会につき皆様は期間短縮の同意書をもらっていますか。会社法で
は次のように規定しています。
----------------------------------------------------------------------
第368条 取締役会を招集する者は、取締役会の日の一週間(これを下回る
期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、各取締役(監
査役設置会社にあっては、各取締役及び各監査役)に対してその通知を発
しなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、取締役会は、取締役(監査役設置会社にあっ
ては、取締役及び監査役)の全員の同意があるときは、招集の手続を経る
ことなく開催することができる。
-----------------------------------------------------------------------
親しい弁護士さんから2年前の議事録類を示され、本年の登記を依頼された
のですが、2年前の議事録類の1つとして取締役及び監査役全員による期間短
縮の同意書が含まれていたので、びっくりしてしまいました。
私もそうですが、皆様も作っていないでしょう。そこで作成し登記申請に添
付しなくても無事に済んでいる理由を考えました。
一番大きい理由は、再任された定時株主総会直後の代表者選定取締役会では
取締役及び監査役全員が出席しているので、全員の同意があったものと扱われ
ることでしょうが、業務監査を権限とする監査役設置会社なのに、監査役が欠
席した取締役会議事録で代表者を選定した場合ですら、補正通知が来ないのは、
取締役会招集通知期間を遵守していたと合法性が推定されるからではないでし
ょうか。
つまり株主割当増資などでは取締役会と払込期日との間に2週間空いている
かが登記所の審査対象になりますが、取締役会自体の招集期間については遵守
が推定され審査対象になっていないからでしょう。取締役の任期が切れる定時
株主総会の取締役会であれば、取締役として再任された日に取締役会を開催し
たことになるから、期間を遵守していないことは明らかだとのご意見もあるで
しょうが、定時株主総会で再任された取締役や会社の監査役であれば、その日
に代表取締役の選定を議題とする取締役会の開催が1週間以上前から分かって
いるはずなので、期間は遵守されているという推定が働いているはずです。
2025.05.20(火)【東京司法書士会 令和7年定時総会】(東京・鈴木龍介)
去る5月17日(土)午後1時から東京司法書士会(東京会)の令和7年定
時総会(本総会)が千代田区の砂防会館「シェーンバッハ砂防」で開催されま
した。私も本総会の組織員として出席いたしました。
東京会の総会の場合、東京会所属の司法書士(令和7年4月1日現在で4749名)
の中から所属する支部ごとで会員数按分により選任された者が組織員となる代
議員制を採用しています。
本総会は、組織員総数442名であるところ委任状を含む407名が出席と
いうことでしたが、会場には254名の組織員が参加されていました。
冒頭、日本司法書士会連合会会長ほかの来賓からの挨拶と、東京法務局長表
彰といったセレモニーが行われました。その後の議事ですが、会務・事業報告
を経て、東京会会則改正を含む20件の議案が上程され、活発な質疑応答等が
行われました。組織員提案である1つの議案を除き、執行部提案のものはすべ
て異議なく可決承認されました。
最後に恒例の万歳三唱で、定刻から延長となりましたが午後6時に閉会とな
りました。
東京会の執行部、組織員、事務局ほか関係者のみなさま、お疲れさまでした。
そしてありがとうございました。
2025.05.19(月)【代表取締役の就任承諾書】(金子登志雄)
取締役会設置会社で代表取締役が交代するという場合には、新代表取締役に
つき印鑑証明書を添付して就任承諾書に個人実印を押して申請するわけですが、
皆様は就任承諾書に住所を記載していますか。
数年前の本人確認証明書が必要になった頃、代表取締役にも住所の記載が必
要だという風潮が出てきたため、同職数人に質問したところ、皆「登記事項だ
し記載するが当然だ」と疑問視さえしていない反応ばかりでしたが、私は開業
以来記載した記憶がありません。それで無事に終わることばかりでしたが、そ
の後も数年に1度程度の割合で、これでよいのかという問い合わせを登記所か
ら受けることがあります。最近もありました。きっと新人の調査官でしょう。
私の回答は『会社法実務〔全訂第2版〕』Q4-17-8に書いたとおり、
あっさりと「取締役の中から選定される『再任』者に準じた地位のため不要で
す」というものでしたが、通じたかについては不明でしたので「他の登記所に
もご確認ください」と伝えたので、そうしてくれたのかもしれません。無事に
終わりました。
結果的に添付書面の印鑑証明書の住所をもとにして住所を登記するわけです
が、マンション名を省略したりは自由にやっています。
ちなみに代表権付与の場合は就任承諾書さえ不要ですし、会社の代表である
清算人の場合は就任承諾書に押印さえ不要です(印鑑証明書が必要なのは印鑑
届のためです)。住所の更正には証明書類が不要ですし、登記の面からは住所
は個人を特定する要素であり独立の意味を有しないといえるでしょう。
2025.05.15(木)【年の功その2(額面株式と単位株制度)】
(金子登志雄)
若い司法書士から、旧商法時代というと額面株式時代というイメージが強い
ので、それについて触れてほしいといわれましたので。年の功その2です。
※平成13年10月施行の改正商法までは額面株式が主流だった。
旧商法会社編は会社法が施行される平成18年5月1日前日まで続きました
が、長い額面株式時代が終息したのは、平成13年10月施行の改正商法まで
です。
いわゆる金庫株解禁(自己株式の取得・保有の解禁で自己株式を取得し金庫
に保管し、ずっと保有してもよいという意味で金庫株解禁という)の改正です
が、この改正で額面株式は廃止されました。額面株式というのは社債券のよう
に株券に額面金額が記載された株式のことで、昭和25年商法大改正までが額
面50円、昭和56年までが額面500円、平成13年までが額面5万円が基
準額でした。
額面株式の特徴は額面未満の発行禁止です。その結果多くの中小企業が「額
面総額(額面×発行済株式の総数)=資本金額」であり、例えば額面5万円時
代の平成13年に資本金5000万円で株式会社を設立するときは、設立時の
発行株数を1000株にしたものです。そして、この会社が資本金4000万
円に減資するには同時に株数も800株に減少しなければなりませんでした。
当時の上場会社はほとんどが額面50円会社でしたが、昭和56年改正で額
面の最低額を5万円にしたため、単位株式制度(最低取引単位)を設け1単位
1000株(50円×1000=5万円)にし、額面500円会社は1単位100株
にしました。これで取引単位では額面50円も500円も5万円も差はなくな
ったのですが、新聞の株式欄に掲載される株価は1株単位ですから、額面50
円会社が100円であれば額面5万円会社では10万円となり、見栄え上は不
利になるため、額面5万円会社は上場する前に額面50円の休眠会社を買収し
(ピークは1000万円もしました)、合併で額面50円にしたものでした。
この際の合併方法は当時存在した同一市町村内の類似商号禁止の法理を回避
するため管轄外に同一商号の50円額面会社を置き、それを存続会社にし合併
し同時に現在の地に本店移転するという方法でしたが、同じ場所に別商号で置
いておき、合併と同時に商号変更すればよいのにと私はその方法を批判してい
ました。
旧商法時代の昔は法務局の力が圧倒的に強く、司法書士は法務局の付属機関
というイメージでしたから、こういうアイデアを出す人がほとんどいなかった
といえます。
平成18年の会社法施行により法務局も対応に追われ、額面株式の思考から
抜けきれない弁護士や税理士も新法について行けずで、会社法を分かる司法書
士の社会的地位が急上昇したのはいうまでもありません。
2025.05.14(水)【持分譲渡の定款変更】(仙台・立花宏)
合同会社の持分を譲渡するには、他の社員の承諾と定款の変更が必要です。
ただし、他の社員の承諾も定款の変更の要件も、定款で別段の定めが可能です
(会社法585条、637条)。
この別段の定めを利用して、次のような規定を設けることは可能でしょうか。
「社員による持分の譲渡については、他の社員の承諾を要しない。持分の譲渡
に伴う定款(ただし、当該譲渡をする社員に関する箇所に限る)の変更は、そ
の持分の譲渡を受けた者が、他の社員の同意なくしてこれを行うことができる」
実は、前記の規定は、旬刊商事法務という雑誌に掲載されていたものです
(注1)。その記事によれば、こうした定めは可能とされていました。
個人的に、この規定について考えてみました。
前段の持分譲渡の承諾については、定款で別段の定めが可能ですので、問題
ないと考えます(注2)。
では、後段の、持分譲渡に伴う定款変更は持分の譲渡を受けた者が単独でで
きるという規定はどうでしょうか。
まず、持分の譲渡を受けた者はいつ社員になるのでしょうか。定款に社員と
定められなければ、持分の譲渡を受けた者は社員となりませんから、持分の譲
渡を受けたものが定款を変更した時ということになるでしょう。
そうすると、この定款変更は、まだ、社員でない者が単独で行うことになり
ます。そのようなことは可能なのでしょうか。定款変更の別段の定めは、その
内容について特に制限はないとされています(注3)。第三者の同意を要件に
することも可能とされていますから(注4)、許容される余地はあるのかもし
れませんが、とても悩ましく感じました。
個人的には、持分譲渡の承諾についての別段の定めがあれば、定款の変更に
ついての別段の定めについても同様の別段の定めを置いたと解釈するのが自然
だと思いますし、持分譲渡についての別段の定めに基づき他の社員の承諾がな
されれば(承諾が不要な場合は、持分譲渡契約の効力が生じれば)、定款の変
更もなされたと解釈するのが自然なように思います。
よって、前記のような規定を設ける場合、後段の、持分の譲渡を受けた者が
定款変更を行う旨の規定を置くよりは、前記記事や拙著にもありますが、確認
の意味で、持分譲渡がなされた場合には社員に関する定款規定が変更されたも
のとみなすといった規定を設けておくこともできると思いますし、その方がわ
かりやすいのではないかと感じました。
注1)髙木弘明「実務問答会社法第78回 合同会社の持分の譲渡・担保権
実行と定款変更」商事法務No.2339、101頁
注2)立花宏『商業登記実務から見た合同会社の運営と理論第3版』
(中央経済社)42頁
注3)相沢哲ほか『論点解説 新・会社法 千問の道標』
(商事法務)606頁
注4)神田秀樹編『会社法コンメンタール15 持分会社【2】』
(商事法務)122頁以下
2025.05.13(火)【書籍『商業登記実務から見た合同会社の運営と理論
〔第3版〕』】 (東京・鈴木龍介)
遅ればせながら、ゴールデンウイークを利用しまして、本コーナーの常連で
ある立花さんの『商業登記実務から見た合同会社の運営と理論〔第3版〕』
(中央経済社/本書)を拝読させていただきました。
https://biz-book.jp/isbn/978-4-502-51361-9
本書については、すでに立花さん本人が本コーナーで取り上げていますので、
内容の紹介等はそちらに譲ることとしまして、別の観点でコメントしたいと思
います。
以前、取り上げたことがありますが、書籍の“増刷”については、著者から
すると、出版社に対する責任を果たした安堵が大きいと思っています。
一方で、本書は、いわゆる“改訂”版ですが(それも「第3版」)、改訂と
いうのは、世間から認められた証左であると思います。つまり、内容的にも引
き続きニーズがあり、かつ読者をはじめ出版社からも高い評価を得ているわけ
です。著者としても大変喜ばしいとともに、少し大げさに言えば誇りでもある
わけです。
私も、年に何冊か書籍を刊行していますが、なかなか改訂にはならないのが
実情ですので、そういった意味でも本書のすばらしさがご理解いただけるので
はないでしょうか。
2025.05.12(月)【「年の功」】(金子登志雄)
広島の幸先司法書士のX(旧ツイッター)に官報公告に代表取締役名の記載
は必須かとありましたし、数日前は若い司法書士から名義株などにつき質問を
受け、こういうのは私のような昔を知っている高齢者しか返答しえないかもし
れないなと感じました。高齢の長所です。
1.平成2年改正商法(翌年4月施行)までは発起人が7人以上必要だった。
平成2年の改正商法というと、株式会社の最低資本金を1000万円とした
ことで有名ですが、当時は現会社法の思考と相違し、資本金100万円などは
有限会社にし株式会社を名乗るべきではないという発想だったわけです。
それはともかく、その改正までは株式会社は大組織という建前だったため、
発起人7人で株式申込人を1人にし最低限合計8人で株式会社を設立する募集
設立が主流でした。そのためAさんが株式会社を作るためには、親族や友人・
知人BCDEFG6人を集め印鑑証明書を集め、Hさんを株式申込人にしたわ
けですが、どうしても名義借りになり、BからHさんは1円も出資していない
のに株主名簿に掲載されました。
設立後ただちに名義借りを解消し株主名簿上の株主をA一人にすればよいの
に、そのまま放置すると今でも名義株主が登場します。最低限、名義株主が生
存中にかたずけておくことです。
2.平成14年改正商法で債権者異議申述公告に貸借対照表が必要になった
平成15年4月施行の改正商法で、債権者異議申述公告(減資公告や合併公
告)の記載内容が変化し、最終貸借対照表の開示も必要になりました。確か、
この時期に官報の公告ひな形が改訂され、それまでは連名の合併公告では代表
取締役名が省略されていたのに、この時期から資本減少公告などと同様に代表
取締役名を記載するようになりました。法令の規制ではなく、官報公告のひな
形という運用の変化だと思われます。
時の経過とともに私もこういう知識につき忘れてきましたが、幸い旧商法時
代に出版した自著で以上のようなことにも触れてきましたので、それらをみて
思い出しています。「年の功」を誇れるのも過去の自著のおかげです。
2025.05.08(木)【定款認証/実質的支配者申告書】(金子登志雄)
本年4月には久々に会社の設立依頼が重なりましたが、定款認証の際の「実
質的支配者となるべき者の申告書」につき、いくつか指摘されました。
1.新用紙にせよ
インターネットで検索した以下の書式を使用していましたが、下記は旧様式
のため、新様式にせよといわれました。
https://www.koshonin.gr.jp/pdf/declaration_company202201_v2.pdf
日本公証人連合会のホームページの下記には「各申告書は、令和5年5月25日
(同年6月1日施行)に更新いたしました」とあるのですが、株式会社用を開い
ても上記とどこに相違があるのか分かりませんでしたが、公証人役場に問い合
わせたところ、表の下の※4のところに、大量破壊兵器などと記載されている
かどうかの差だそうです。
https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow09_4
2.実質的支配者該当性の根拠資料の定款以外にも〇で囲め
当事務所が受託する最近の定款設立はほとんどが発起人一人であることと、
例えば1000万円の出資でも1株1万円にするのか、5万円にするのかなど
によって設立時の発行株式数が異なるため、そういうのは発起人決定書で定め
ることにし、定款には発起人の住所と氏名しか記載してきませんでした。
長い間これで無事に認証されていたのですが、この4月には見出しのように
いわれ、発起人決定書の添付を求められました。発起人一人なら、議決権割合
100%は明らかではないかと反論したのですが、認証手続ではそうなってい
るようです。
ついでながら、この申告書はワードで作成し、印刷でPDF化し、几帳面に
電子署名し公証役場にメールの添付ファイルで送っていましたが、いまはワー
ドのままでもよく、押印も不要になっていることも、この4月に知りましたが、
皆様はご存じでしたか。
2025.05.07(水)【進まない依頼】(島根・根来川弘充)
長年仕事をしていますと、途中でとまってしまう、ご依頼が少なからずあり
ます。その中でも相続登記の依頼の割合が多いです。
ところが、そのような相続登記の依頼のうち3件について、この4月に新た
な進展がありました。
いずれも5年以上は前の事件でしたので、すぐに思い出すことはできません。
お電話で「以前御願いした〇〇といいますが、・・・」と言われても、「すい
ません。記録をしらべて、すぐにこちらからお電話します。」とお応えして、
データや紙資料を一生懸命さがして、内容を思い出しました。
理由は、それぞれの事件で違うのですが、昨年4月からの相続登記の義務化
が影響していると思われます。
しかし、そうだとしても、4月だけでという理由にはなりません。たまたま
偶然でしかないと思いますが、私としては、とても嬉しく思っています。
新年度がはじまったことも重なり、気持ちを新たにして、取り組みたいと思
います。
2025.05.01(木)【増えるフリーランス】(金子登志雄)
5月に入りよい陽気になりましたが、日々の通勤電車内をみると、東京では
いまだに冬のコートを着用している方から半袖シャツで腕をむき出しにしてい
る若い方まで多種多様ですが、皆様の地域ではいかがですか。
さて、先日は、化学の会社の研究員を定年退職した後、その専門能力を活か
してフリーランスをしている友人と実質40年ぶりにお会いし飲みながら旧交
を温めてまいりました。
フリーランスというと、つい独立系のジャーナリストをイメージしてしまう
方も多いでしょうが、いまは従業員もいない一人事務所の司法書士や弁護士と
同じく組織に属さない自由な働き方を実践している個人事業主のことだといっ
たほうが正確な表現でしょう。私の身内にもおり、最近、急激に増えているの
はご承知のとおりです。
その友人は私が仕事もなく学習塾の講師で生計を立てていた不遇(?)時代
の同僚(年齢は私より一回り下)ですが、別の学習塾で知り合った友人は若い
頃に脱サラし特許関係の調査の仕事を請け負うフリーランスをしていますし、
こういう方々とは生活環境が似ているせいか共通の話題が多いだけでなく相性
が合うのか、年齢差を気にせず長い付き合いになっています。
同じフリーランスでも特許関係の友人は司法書士同様に請負業に近いのです
が、上記化学関係の友人の仕事は、某会社の開発プロジェクトの一部に参加す
るなど派遣あるいはテレワークに近い働き方のようで、業種による差を感じま
した。
会社員の生活もテレワークが増え、週に2日程度しか出勤しない方もいます
が、このテレワーク従業員と脱サラ・フリーランスとは仕事の面では大きな差
はないでしょう。差は身分保障のない自由でしょうか。一人事務所の司法書士
を含めフリーランスの資本は間違いなく健康な体です。高齢になった私も気を
付けなければ・・・。ちなみに東京会で現役の最高年齢は90歳を超えている
そうです。定年のない自由業とはいえすごいことですね。
2025.04.30(水)【本年4月登記案件の特徴と感想】(金子登志雄)
商業登記書き入れ時の4月も最後の日になりました。誤字脱字の小さな補正
はありましたが、無事に終わりそうでほっとしています。
当事務所における本年4月申請案件の特徴の1つは、組織再編事案で合併会
社や吸収分割承継会社で代表取締役が新人に交代し、取締役全員の印鑑証明書
が必要な事案が重なったことでしょうか。それだけでなく取締役会議事録が書
面決議だったため定款も必要になりで、結構面倒なケースが中心でした。とく
に裏までコピーしないと原本還付されないコンビニで取得の印鑑証明書は面倒
に感じました。
代表取締役の住所非表示は初体験で設立を含め3件申請しましたが、これも
無事に終わりました。全て配達証明郵便は使わず私の名による本店所在場所の
実在性を確認した書面にしましたが、1つは常連顧客であったため、本店実在
性の確認の日時については記載せず、具体的確認方法の部分に「10年以上の
常連顧客であり、過去に何度も業務の打ち合わせ等で現地を訪問しており、看
板も確認しているし、添付した会社のホームページの写しでも分かるとおり、
グーグルマップにも掲載されている。受託した登記完了後の原本の返却もレタ
ーパックで行っているが無事に到着している」などと文章で主張しましたが、
問題にもされず終了いたしました。
難儀だったのは実質支配者の証明書作成でしたが、中には親会社の上にその
親会社があり、さらにその上に親会社があり・・・で、今回ほど、実質的支配
者とは株主リストに記載する株主とは相違し、上場会社やその子会社でない限
り自然人に限るため間接支配の議決権比率の算定がややこしくなると感じたこ
とはありませんでした。
2025.04.28(月)【募集株式と利益相反】(金子登志雄)
中小企業が資金調達しようとしても身内あるいは後見人ともいうべき親会社
やオーナー株主である取締役(又は取締役の経営する会社)しか容易に応じて
くれないのが実情です。そこで、登記実務では次の登記をよく依頼されます。
①100%子会社に親会社が出資(子会社社長は親会社の取締役とする)
②オーナー株主である取締役(又はその経営する会社)が出資
③オーナー株主の社長から運転資金として無利息・無担保で借り入れしてい
たものを出資に切り替えるDES
さて、取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引しようとするときは、
株主総会あるいは取締役会で当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を
得なければなりません(会社法356条、365条)。これを利益相反取引と
いいますが、その規制の趣旨からして、自己又は第三者のために会社と取引し
ようとするだけでは足らず、取締役側に利益で会社側に不利益になる取引でな
ければなりません。上記の①は完全親子関係のため利益は一致し、③は借入行
為を含めて会社に不利益がなく利益相反取引に該当しないといえます。
問題は②の事例ですが、インターネットで検索すると該当するとの見解が多
数のようです。中には、将来の配当金負担や解散後の残余財産分配で取締役側
が利益を得るなどを根拠にする見解もありましたが、配当や残余財産分配にも
株主総会決議が必要ですし、会社に頼まれて資金調達に応じたのに、会社に不
利益な行為と認定されては取締役側も踏んだり蹴ったりでしょう。
これに対し、登記先例では、A社(代表取締役甲)で募集株式を発行する際
に、甲が代表取締役であるB社に割り当てる双方代理事案でも甲はB社との関
係では利益相反だがA社との関係ではならないとされています(松井ハンドブ
ック5版284頁)。B社の側からは高値掴みや救済のための出資で株式が紙
くずになるリスクもあるのに対し、A社の側からは仮に安値の有利発行であろ
うと、財産が増えるだけで損失はなく(損失は株式価値が下がる他の株主です
が有利発行の承認を決議しています)、会社の不利益要件を満たさないためだ
と私は説明しています(拙著『会社法実務〔全訂第2版〕Q2-19-3)。
ここで共著者の幸先司法書士から、A社が公開会社の場合に利益相反だと説
明されている次のような高裁裁判例があるが、これはどういうことだ、非公開
会社と公開会社で取扱いを異にするということかと鋭い質問を受けました。
https://www.swlaw.jp/ipo-library/4164/
公開会社では募集株式の発行の決定機関が取締役会で、非譲渡制限株式の割
当先の決定は代表取締役ですから、株主総会で募集を決定し取締役会で割り当
てる非公開会社よりも恣意的決定がなされやすいことは事実ですが、割当予定
先が自社の取締役側であれば、会議の公正をはかるための特別利害関係人制度
がありますし、募集事項は株主にも通知され差止請求の機会を与えますから、
単に自己取引だ双方代理だというだけで利益相反だと断言するのは早計ではな
いでしょうか。
上記の高裁判例について詳細には吟味していませんが、会社に不利益かの検
討を無視し、正しい手続を無視した自己取引だというだけで利益相反を認定し
瑕疵ある取締役会決議だと断定したとしか思えず、結論は妥当でも理由付けに
疑問を感じざるを得ませんでした。
ということで本判決は手続に問題があり非公開も公開もないと思うと幸先さ
んには連絡しましたが、前記したとおり自社の取締役に第三者割当すると利益
相反になるとの言説は広く普及しており、一般化されていますから、会議の公
正をはかる特別利害関係の問題と会社に不利益を要する利益相反とは厳密に区
別すべきではないかというのが私の意見です。
(注)利益相反取引につき旧商法第265条に「取締役が会社の製品其の他
の財産を譲受け会社に対し自己の製品其の他の財産を譲渡し会社より金銭の貸
付を受け其の他自己又は第三者の為に会社と取引を為すには取締役会の承認を
受くることを要す(後略)」とあったように、製品の売買や金銭の貸付など通
常であれば株主総会や取締役会の決議までは必要としない財産取引を会社と取
締役がなす際に利益相反が問題になるのであって、簡易合併や募集株式の発行
など会社組織の構築に関する行為では株主総会決議や取締役会決議が必須であ
るほか厳格な手続が必要なため、利益相反取引から除外されるべきではないか
と私は考えています。
2025.04.24(木)【管轄外本店移転】(金子登志雄)
司法書士によるXなどで話題になっておりご存じだと思いますが、管轄外本
店移転では印鑑届の提出が不要になりました。移転後の印鑑カード請求は従来
どおりです。
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00228.html
本店移転登記は意外に難物であり、組織変更や再編と同時の本店移転は本店
移転だけ抜き出して4連件にし、3/4と4/4を本店移転登記にするのが通
常ですが、ケースによっては先に本店移転することもあります。
これに関連して、4月19日に本店移転し、4月22日に取締役が辞任し、
本日24日に登記する際も、本店移転後の辞任登記を本店移転登記ともども現
登記所で申請することも可能です。
ところで、荷物移転の引っ越しは4月19日の土曜日、移転先での事業開始
は4月21日の月曜日だとして、本店移転日はどちらが適当ですか。会社が決
めた日が移転日ですが、通常は事業開始日にします。
2025.04.23(水)【御礼】(仙台・立花宏)
去る4月19日(土)は、東京の司法書士会館で開催された商業登記倶楽部
様の研修会の講師を務めさせていただきました。webでの参加も可能な研修
会で、おかげさまでたくさんの皆様にご参加いただいたと伺っております。
ご参加いただきました皆様、そして、開催にご尽力いただきました関係者の皆
様には、この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。
研修会の第1部が神田秀樹先生のご講義だったこともあり、たくさんの方々
がご参加くださったのだろうと思います。私も神田先生のご講義があると伺っ
てから、とても楽しみにしていて、当日は現地で受講させていただくことがで
きました。おかげさまで、とても貴重な機会となりました。
私の担当は第2部で、テーマは、合同会社を中心とした持分会社の持分相続
についてです。なるべく、実務に関係するような内容とするように心がけはし
ましたが、通常の研修会と異なり、研究発表のような方向性のお話をさせてい
ただきました。受講してくださった方々がどのような感想をお持ちになったの
かはわかりませんが、少しでも、皆様の実務等に役立つ内容だったと感じてい
ただけたのであれば幸いだと思っております。
研修会終了後、現地で受講していただいたたくさんの先生方と名刺交換をす
ることができました。お話を伺うと、商業登記に熱心な方々ばかりでした。商
業登記倶楽部様という団体があるからこそ、そうした方々と知り合うこともで
きるのだろうと思います。商業登記倶楽部様は商業登記に熱心な司法書士、ま
た、そうした司法書士を志す方にとって、貴重な団体なのだと、あらためて実
感した次第です。
商業登記倶楽部様の今後の活動に期待するとともに、ますます発展されるこ
とを心より祈っております。
2025.04.22(火)【千代田支部定時総会2025】(東京・鈴木龍介)
いわゆる3月決算の定時総会の皮切りとして、去る4月18日(金)に東京
司法書士会千代田支部の令和7年定時総会(本総会)がアルカディア市ヶ谷・
私学会館で開催されました。私も千代田支部の会員として本総会に出席して参
りました。
そもそも司法書士会(単位会)の支部というのは、東京司法書士会(東京会)
等の各単位会で地域での活動等を推進するために単位会の会則の定めに基づき、
設けられた組織体です。ちなみに、東京会は総会員数(個人の司法書士ベース)
が4,500名を超える最大規模の単位会で、29の支部が設置されています。
https://www.tokyokai.jp/about/chart.html
その中でも千代田支部は個人会員が641名、法人会員84からなる東京会
で最大の支部です。
本総会は、委任状出席を除く、リアル出席は44名でした。本総会は永年表
彰にはじまり、目的事項としては役員改選や東京会代議員選任(今回は54名
で、私も選任されました。)等もりだくさんでしたが、すべて満場一致で可決
承認されました。その後、同会場で立食形式による懇親会もあり、盛会のうち
散会となりました。
支部役員ほか関係者のみなさん、お疲れさまでした。そして、ありがとうご
ざいました。今後ともどうぞよろしくお願いします。
2025.04.21(月)【会社の計算/数値の正負に注意!】(金子登志雄)
広島の幸先司法書士のXなどで、分かりやすい会社の計算本として話題にし
てくださったため昨年復刻させた『目からウロコ!これが増減資・組織再編の
計算だ!〈新訂版〉』の15頁に「(自己株式簿価600万円を前提に新株式
50株発行、自己株式50株全部を処分するにあたり)1株5万円では、収入
500万円、支出600万円で損失となり、その他資本剰余金が100万円減
少します」とあることにつき質問されましたので、次の会社計算規則14条2
項1号の意訳で説明したのですが、クイズのようで結構難しいため、皆様もぜ
ひ挑戦して下記に数字をあてはめ、△100万円を導いてください。
----------------------------------------------------------------------
その他資本剰余金の額
イ及びロに掲げる額の合計額からハに掲げる額を減じて得た額
イ 合計出資額に自己株式処分割合を乗じて得た額
ロ 次に掲げる額のうちいずれか少ない額
(1)自己株式処分差損額
(2)合計出資額に株式発行割合を乗じて得た額(マイナスのときは零)
ハ 処分する自己株式の帳簿価額
----------------------------------------------------------------------
イは合計出資額500万円×50%=250万円ですが、ロの(1)は、自
己株式簿価600万円-自己株式処分割合額250万円で350万円でしょう
か、それとも△350万円でしょうか。同じくハは600万円でしょか、それ
とも△600万円でしょうか。
これで全く異なった結果になりますが、決算公告で当期純損失を表す際に△
をつけないのと同様に、差損額は△350万円でなく350万円です。自己株
式の帳簿価額も600万円です。貸借対照表では純資産の控除項目だから△を
付けて表記するだけです。
その結果、イは250、ロの(1)は350、(2)は250で少ない額の
(2)を採用。イ+ロは500となり、減じるハは600だから、△100万
となりその他資本剰余金が100万円減少します。
この結果であるイ+ロ-ハは(自己株式処分割合額+株式発行割合額)ー自
己株式帳簿価額となり、金子式簡略計算式の「合計出資額-自己株式簿価」と
同じであり、すぐに計算できます。
ちなみに同じ条件で1株8万円で発行・処分したとすると、ロの少ない額は
(1)の200万となり、上記の計算結果は0になります。合計出資額800
万円-自己株式簿価600万円=200万円は資本金等増加限度額となり資本
金と資本準備金に計上され、その他資本剰余金には計上されないからです。
2025.04.17(木)【事後謄本請求報酬は?】(金子登志雄)
謄本代の値上げで思い出しましたが、皆様は謄本請求につき報酬を得ていま
すか。オンライン申請のない昔は、ほとんどの司法書士が謄本を自ら取得し顧
客にお渡しする関係上、1通いくらで請求していたものでしたが、オンライン
申請の今は、顧客先に何通送れと申請するだけで、1通でも50通でも立替金
額の多寡は生じても手間は同じため報酬を請求しにくくなっているので、どう
しているのかなと思った次第です。
私は開業以来、オンラインでない時代を含め、謄本請求では実費以外に請求
しないのを原則としています。頭を使わないことに報酬を請求しないというの
が当事務所のモットーだからです(気取り過ぎですね)。
会社法施行の平成18年頃だったでしょうか、某企業から今後の商業登記業
務を依頼された際に、その話になり「いままでは1月に100通以上も取得を
お願いすることも多く、いままでの先生には、それだけで月5万円以上を支払
い、事実上の顧問料も同様になっていた」といわれたことがありますが、昔の
司法書士はこのように代書屋的に思われていたものです。
いまは少なくとも商業登記の最前線では法務手続コンサルタントで代行者と
評価されており、会社法のおかげで代書屋的ニュアンスがだいぶ薄まりました。
手続法務中心の会社法については、いまでは弁護士さんより詳しいと頼りにさ
れているのではないでしょうか。
2025.04.16(水)【株主総会と公告の前後】(金子登志雄)
資本金の額の減少につき株主総会の決議を経ていないが、先に異議申述公告
を掲載し1か月以上経過した後に株主総会決議を行うことでも問題ないのかと
いう質問を時たま受けますが、皆様はどう思いますか。
「え!会社で決定していないのに公告するのか。信じがたい」と思う方も多
いでしょうが、少なくとも代表取締役は決定していますし、合併等の組織再編
では「効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約等の
承認を受けなければならない」と規定され(783条1項、795条1項)、
合併等の公告が先行し、公告の掲載から1か月以上も経過したのに株主総会で
決議することで差し支えない旨が明らかです。
資本金や準備金の額の減少や株式の併合、株式譲渡制限の設定などでも同じ
であり、効力発生日の「前日まで」ではなく、「効力発生日まで」に株主総会
で決議すればよく、極端な場合は決議の日を効力発生日にし、その日に登記申
請することも可能です。要するに全手続が終わったときに効力が発生します。
合併等であっても株主総会決議以外の反対株主の買取請求などは効力発生日に
効力が生じます。
この取扱いから次のことが分かります。
1.総会決議前の公告は総会決議の不承認又は不決議を解除条件として債権者
に向けて異議がないかと問うていることになり、効力発生日は公告の必要的
記載事項ではない。
2.効力の発生時は効力発生日の午前0時や24時に限定されておらず、その
日のうちのどこかである。
2025.04.15(火)【「法テラス」ってご存じですか?】(東京・鈴木龍介)
「法テラス」の正式名称は「日本司法支援センター」といい、「総合法律支
援法」(平成16年法律74号)に基づき設立された独立行政法人で、平成18
(2006)年10月から業務を開始しました。現在、本部(東京・中野)、コール
センターのほか、全国103か所に地方事務所等が設置されています。
日本では、法的トラブルに直面した際に、情報や経済的な理由により、適切
な法的支援を受けられない司法アクセスの格差が問題とされてきたところ、法
テラスは、これを是正し、司法へのアクセスの保障を制度的に確保することを
目的としています。
法テラスの主な業務は以下のとおりです。
1.情報提供
法的トラブルに関する相談窓口として、解決に向けた情報を提供するとと
もに、必要に応じて弁護士ほかの関係機関の紹介などを行っています。
2.民事法律扶助
経済的に余裕のない人に対し、裁判費用等の立替えを行うとともに、弁護
士等による法律相談などを行っています。
3.犯罪被害者支援業務
犯罪被害者やその遺族に対して、法律相談の手配、情報提供、必要に応じ
た支援機関の紹介などを行っています。
4.司法過疎対策
弁護士等の法律専門家が少ない地域(司法過疎地)において、常駐弁護士
の配置などの支援を行っています。
法テラスと司法書士の関わりですが、民事法律扶助業務において、法テラス
と契約している司法書士が法律相談、簡易裁判所での訴訟代理、裁判所提出書
類の作成を行っています。ちなみに、令和5(2023)年度時点で、契約司法書
士は約7,500人となっています。
~参考~
・法テラス
https://www.houterasu.or.jp/
・法テラス白書(令和5年度版)
https://www.houterasu.or.jp/uploaded/attachment/4629.pdf
2025.04.14(月)【謄抄本の値上げ】(金子登志雄)
ご承知のとおり、先週は米国トランプ氏による同盟国に対しても恫喝的な関
税政策で世界経済に大混乱が生じ、日経平均株価も、暴落(月)→暴騰(火)
→暴落(水)→暴騰(木)→暴落(金)という日替わりの乱高下でした(下記
中段のグラフ(チャートといいます)参照)。
https://is.gd/nrJr5Z
主食の米が大きく値上がりし、ラーメン一杯ですら1000円以上にもなり、
諸物価高騰のインフレも進みそうで庶民の生活不安も増加したのに、景気低迷
の兆しには困ったものです。
さて、商業登記では登記申請がピークになった4月1日申請案件もぼちぼち
と完了通知が入る時期になりました。すでに簡単な2社合併や吸収分割も完了
通知をいただきました。
オンラインで事後謄本を請求すると、あれっと思いませんでしたか。1通あ
たり500円で3通なら1500円のはずなのに1560円になっているので
す。原因はこの4月からの値上げでした。
https://www.moj.go.jp/MINJI/TESURYO/index.html
昔は1通1000円という時代もありましたので(当時は登記印紙というも
ので納めました)、ベテラン司法書士には驚きはなかったでしょうが、若い方
には1通20円も上げる理由が納得できないのではないでしょうか。
いま都内では昼食に1000円は必要ですが、地方ではいかがですか。生活
防衛のために貯蓄よりも投資だと言われてきたのに、この株価暴落でNISA
も含み損でしょう。他人のせいにせず、自分の身は自分で守るしかありません。
2025.04.10(木)【合併解散登記申請人の表記方法】(金子登志雄)
ご承知のとおり、東京都千代田区の甲が合併存続会社、新宿区の乙が消滅会
社の際における紙での登記申請の際の乙の合併解散の登記の申請人欄は次のよ
うに形式的には申請人は消滅会社にし、その合併承継人を記載します。
----------------------------------------------------------------------
東京都新宿区西新宿一丁目2番3号
申請人 株式会社乙
東京都千代田区神田三丁目3番3号
存続会社 株式会社甲
横浜市中区北仲通五丁目57番地
代表取締役 〇〇〇〇
東京都千代田区神田神保町三丁目23番地
代理人 司法書士 法務太郎
----------------------------------------------------------------------
では電子申請の場合はどうでしょうか。私は、記載すべき欄が見当たらない
ので、消滅会社の商号と本店は登記申請書の最初の部分に記載されるので、次
のように存続会社だけ記載してきましたが、いままで無事に終わっていました。
----------------------------------------------------------------------
申請人 本店 東京都千代田区神田三丁目3番3号
商号 株式会社甲
代表者住所 横浜市中区北仲通五丁目57番地
資格 代表取締役 氏名 〇〇〇〇
上記代理人 住所 東京都千代田区神田神保町三丁目23番地
氏名 司法書士 法務太郎
----------------------------------------------------------------------
ところが、つい最近、存続会社の代表者の氏を誤記し補正通知を受けた際に、
「申請人欄につき、申請人が消滅会社『株式会社乙』の存続会社である旨の記
載をせよ」と指示されてしまいました。どこにどう記載すればよいのでしょう
か。商業登記に詳しい人に電話したら「自分は本店欄に、東京都新宿区西新宿
一丁目2番3号株式会社乙・東京都千代田区神田三丁目3番3号と列挙してい
る」といわれました。別の方に質問したら「その他の申請書記載事項の欄に、
消滅会社 東京都新宿区西新宿一丁目2番3号 株式会社乙、と記載している」
といわれました。
オンライン申請が始まってから何年経つでしょうか。こんなことで人によっ
て差があるとは驚きでした。ちなみに法務省ホームページの書式例の下記は、
申請人欄に消滅会社の本店と商号が記載され、代表取締役だけ存続会社にして
いるのでしょうか。不思議な申請人欄でした。商業登記法82条1項(合併に
よる解散の登記の申請については、吸収合併後存続する会社を代表すべき者が
吸収合併消滅会社を代表する)に忠実ですが、すごく違和感があります。
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001367815.pdf
2025.04.09(水)【取締役会へ報告を要しないものとされた日】
(仙台・立花宏)
私のような田舎司法書士にとっては、まだまだ、会社法は難解で、わからな
いことばかりのような気がします。先日、とある会社法関係の書籍を読んでい
て、ふと、疑問に思ったことがありました。
取締役会への報告の省略の制度(会社法372条)です。
ご承知のとおり、この制度は、代表・業務執行取締役の職務執行状況の報告
(会社法363条2項)を除き、取締役等が取締役(及び監査役)の全員に対
して取締役会に報告すべき事項を通知したときは、当該事項を取締役会へ報告
することを要しない、というものです。
株主の全員に対して株主総会の報告すべき事項を通知した場合において、当
該事項を株主総会に報告しないことにつき株主の全員が書面等で同意の意思表
示をしたときは、株主総会への報告があったものとみなす、株主総会への報告
の省略(会社法320条)の制度がありますが、この制度と比較し、取締役会
への報告の省略の制度は、報告を受ける取締役等の同意が不要な点が大きな違
いです。
個人的に、わからなかったのは、この制度を利用した場合の議事録の記載事
項です。この議事録には、「取締役会への報告を要しないものとされた日」を
記載する必要がありますが、この日はいつなのだろうということです。
もちろん、報告すべき事項を通知した日ということになるのだと思いますが、
本来、取締役会で報告すべき内容ということを考えると、通知を発するだけで
は足りず、受領する取締役等全員に通知が到達した日と考えるべきなのだろう
と思います。
しかし、議事録を作成する場合、作成者は、この通知が到達した日をどのよ
うに確認するのだろうか、それを受領者全員に確認する義務まであるのだろう
か、というのが疑問に感じた点でした。実際に到達した日でなくても、通常で
あれば到達すべき日だと考えればよいのだろうと思いますが、実務上は悩まし
く感じることもあるのではないかと思いました。
もっとも、手元の資料をみても、この論点に触れているものは見つかりませ
んでした。私が変なところを気にしているだけで、あまり問題となるケースは
ないのかもしれません。
2025.04.08(火)【『まるわかり!司法書士』】(東京・鈴木龍介)
中央経済社より『まるわかり!司法書士』(本書)が発刊されました。日本
司法書士会連合会(日司連)編ということで、私もメンバーの一人として編集
・執筆に携わりました。
本書は司法書士に興味・関心を持つ学生や、これから資格を取得してキャリ
アを積みたいという方に向けて、仕事内容、実際の働き方や魅力等を伝えると
いうもので、試験勉強や資格取得後の流れのほか、現役司法書士からのメッセ
ージや気になるコラムも掲載しており、司法書士への理解が深まる1冊といえ
ます。
本書の概要は以下のとおりです。
<プロローグ>
日本が直面する5つの課題と司法書士
<チャプター1>
司法書士ってどんな人?
<チャプター2>
司法書士の仕事とは?
<チャプター3>
司法書士の働き方は?
<チャプター4>
司法書士になるには?
<エピローグ>
現役司法書士からのメッセージ
https://www.suzukijimusho.com/lib/books/
本書を手にとっていただき、1人でも多くの方が司法書士を目指していただけ
ましたら、大変嬉しく思います。
2025.04.07(月)【本店実在性確認書面】(金子登志雄)
本日は代表取締役の住所非表示申出の初体験です。2社あり1社は常連客の
著名会社、もう1社は常連客である上場会社が入居中の大きな著名高層ビル内
に同居する100%子会社です。したがって、配達証明書ではなく、「本店の
実在性を確認したことを証する書面」にしましたが、前者については、必須の
記載事項である「本店実在性の確認の日時」については困ってしまいました。
過去に何度も会社訪問しており、いまさらこのためだけに訪問するまでもない
からです。最後に訪問した日でも記載しておけばよいのでしょうが、1年以上
前の日でもよいのでしょうか。
そこで、これまでに何度も金子独自方式で切り抜けてまいりましたので、今
回も確認の日時を空白にし、「本店実在性の具体的確認方法」の部分に、申出
会社は従業員多数の著名会社で本店も自社ビルであり、グーグルマップでも所
在が分かるようになっている、当職も過去に業務の打ち合わせ等で何度も訪問
しており本社を現認済みだが、念のため、本社ビルと地図付きのホームページ
の抜粋を添付しておく、などと記載しておきました。たぶん、こんな風変わり
な本店実在性確認書面をみるのは担当法務局も初めてでしょう。
後者は先月に親会社を訪問した際に同一場所の申出会社にもお寄りしました
が、親会社のフロアの一部を間借りし、郵便受けも独立したものではなく親会
社の郵便受けで受けるように配達郵便局と調整済みとのことでした。通常は、
郵便受けに同居子会社の商号をシールで貼っておくものですが、この上場会社
はビルの集合郵便受けのうち親会社名の郵便受けをいくつも確保してあり、い
わばグループ名の郵便受けと捉えていました。
上記のような事例はいくつもあるので、ごまかしはやめて上記の現実を正直
に記載しましたが、現認の日時がつい最近でなくともよいこと、必ずしも独立
の郵便受けがなくとも郵便物が間違いなく届けばよいはずであるであること
(証明すべきは本店の実在性であり郵便受けの実在性ではないこと)の先鞭を
つけるためにも、このまま提出してみます。
2025.04.03(木)【原本還付】(金子登志雄)
4月1日午後は数年ぶりに千代田区九段の第2合同庁舎内にある東京法務局
(本局)に行ってまいりました。雨で外が寒かったためタクシーで行ったので
すが、いままでは右折で合同庁舎の駐車場に入れたのに、いまは右折ができな
いように変わっており、驚きました。
訪問理由は、電子申請後の添付書面の提出と原本還付のためです。東京では
窓口で原本と写しを照らし合わせ、すぐに原本を返却してくれるため、非常に
助かり、行く価値があるのです。
もっとも、そのような使者的な雑用はいつも身内が手伝ってくれるため、私
が自ら行くことはほとんどないのですが、この4月1日だけは添付書面の分量
が多く、身内一人では無理のため、私も着いて行ったわけです。
時間がかかったのは、コンビニで取得した印鑑証明書でした。原本還付のた
めには表と裏のコピーが必要ですし、原本還付の際も裏面にある偽造防止マー
クを法務局内に置かれた特殊な画像確認装置で確認する必要があるのでしょう。
4月1日は3月決算会社の事業年度の期首であるため、代表取締役の交代な
どの人事異動が多く、取締役会議事録に出席役員全員の個人実印が必要だとい
う場合も少なくなく、今回も某社では9通の印鑑証明書が必要で、そのうち8
通がコンビニで取得したもので、原本還付に時間が必要でした。
東京法務局では4月1日申請の登記完了予定日は商業登記では21日でした。
東京法務局は他の大手法務局と相違し人手も多いでしょうから、それにもかか
わらず、これだけ時間がかかるのは、東京は会社数が多いだけでなく、4月1
日には登記申請が殺到したためでしょう。こういう日が続けば私もウハウハで
すが昨日の2日からはいつもの退屈な時間に戻ってしまいました。
2025.04.02(水)【司法書士による詐欺???】(島根・根来川弘充)
今年は3月30日に松江で雪がちらつきました。この3,4日前は、日中の
気温は20度をこえたのですが、ここ近年では経験したことのない寒さを感じ
ております。近くの桜の木も3月のうちに満開になることはありませんでした。
4月上旬に満開になれば、きっと入学式あたりになるのかもしれません。晴天
に恵まれることを祈念したいと思います。
今月、私がお世話になった小学校時代の先生からメールで相談がありました。
内容は、「司法書士事務所によるチラシで、『(いろいろなカードが写真で並
べられ)これらのカードをお持ちの方は過払金がある可能性がありますのでご
相談ください!」と呼びかけるものが、複数回ポストに投函された。自分も該
当するカードをいくつか持っているが詐欺ではないかもしれないと思うが、こ
れは信じてよいものだろうか。」というものでした。
債務整理の相談を受ける側としては、「大丈夫ですよ。」と言いたいところ
ですが、よくよく考えてみますと、還付金詐欺などは、「お金が戻ってきます
よ」といって、被害が発生しています。事情を知らない方からみれば、どちら
も同じに見えて当然だろうと思います。
相談をしてくださった先生は、司法書士という資格をみて、私を思い出し聞
いてみようと思ったとのことでした。一通り私の回答メールをしましたところ、
「安心しました。」とお返事を頂戴しました。お役に立てたことは、大変良か
ったと思います。
相続登記義務化もあり、司法書士の名を利用した詐欺もあるかもしれません。
不審に思われたら、お近くの司法書士に相談していただけたらと思います。
2025.04.01(火)【2025年4月からはじまる制度等】(東京・鈴木龍介)
今週、令和7(2025)年の新年度が開始します。例年、新年度の始めとなる
4月には、あらたな制度や取扱いがスタートすることが少なくありません。
今年度はどうかというと、人事労務関係(いわゆる「育児・介護法」や「高
年齢者雇用安定法」の改正等)を除きますと、比較的静かな印象を持っていま
す。という中ではありますが、私が関心を持っている4月1日施行のものをピ
ックアップしてみました。
【官報の電子化(官報の発行に関する法律)】
https://www.cao.go.jp/others/soumu/kanpo/about/kanpo_about.html
従来の紙の官報は、国立印刷局本局等での掲示や、全国の官報販売所での販
売を通じて、一般国民が官報を閲覧し、又は入手することができる状態に置か
れることをもって、発行されてきましたが、2025年4月1日以降は、官報は官
報発行サイトに掲載されることをもって発行されることとなり、同サイトに掲
載される電子データが官報の正本となります。
組織再編等の商業登記申請で「公告をしたことを証する書面」として官報を
添付する場合が少なくところ、現場的な作業等はこれまでの電子添付と変更は
ありませんが、一応チェックです。
ちなみに、官報掲載料金についても、4月1日から改定(値上げ)になります。
https://is.gd/HFa5GO
【私立学校法の改正】
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shiritsu/mext_00001.html
執行と監視・監督の役割の明確化・分離の考え方から、理事・理事会、監事
及び評議員・評議員会の権限分配を整理し、私立学校の特性に応じた形で建設
的な協働と相互けん制を確立するという趣旨を踏まえ、役員等の資格・選解任
の手続等と各機関の職務・運営等の管理運営制度の見直しや、学校法人の意思
決定の在り方の見直しが行われました。
学校法人の登記にも大きな影響があるところですので、要チェックです。
登記先例:令和7年3月19日民商第44号通知
https://www.moj.go.jp/content/001435921.pdf
【貨物自動車運送事業法ほかの改正】
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_mn4_000014.html
民にとっての重要なインフラの1つである物流の効率化や業務の適正化に関す
るルール等が追加されました。具体的には、
①運送契約締結時等の書面交付義務、
②委託先の健全な事業運営の確保に資する取組(健全化措置)を行う努力義務、
③当該取組に関する運送利用管理規程の作成・運送利用管理者の選任義務、
④実運送事業者の名称等を記載した実運送体制管理簿の作成・保存義務などです。
物流業者の顧問先があります関係で、経営という観点から対応等を検討したいと
思っています。
2025.03.31(月)【休日の過ごし方】(金子登志雄)
先週金曜日の28日は4月1日付けの登記資料を複数の顧客が立て続けに持
参してくださいましたが、連件申請の組織再編などもあり分量が多くて全部を
詳細にチェックし、原本還付のためのコピーもしきれないため、自宅に持ち帰
り、この土日はのんびりと原本を確認しチェックしていました。
不思議なもので信託銀行員として雇用されていたサラリーマン時代には休日
は仕事から解放された日だったためか休日が楽しみでしたが、一人親方の今は、
仕事が苦役と感じることも一切なく、残した仕事があれば土日も深夜も無関係
にごく普通に活動することができています。突然の電話もないため効率もよく
はかどります。
一人親方の司法書士はこういう人が多いようですね。私の親しい司法書士も
土日にしばしば事務所に出て活動している人が少なくありません。都内の司法
書士と相違し地方では自宅と事務所との距離が近いことが多いため、自宅では
なく事務所に出るのでしょう。
一方で月報司法書士の登録や退会者名一覧の記事をみると、若い番号なのに
廃業している方が少なからず散見されます。廃業理由は分かりませんが、この
資格は一生もので定年もありません。弁護士と相違しトラブル案件とかかわる
ことも、事件捜査のために外出することも少なくて済みます。様々な職業の中
で司法書士は恵まれているほうなのに、なぜ廃業するのか、余程の事情があっ
たのかと、ついつい想像してしまいますが、皆様の環境や心境はいかがですか。
2025.03.27(木)【利益相反取引と特別利害関係人】(仙台・立花宏)
取締役会設置会社であるA社とB社で、不動産の売買を行います。両社の取
締役の構成は、以下の通りです。
A社 B社
代取 甲 代取 甲
取 乙 取 乙
取 丙 取 丁
この取引は利益相反取引に該当し、取締役会の承認が必要です
(会社法365条、356条)。ところで、A社とB社のそれぞれの取締役会
でこの取引を承認する場合、甲は議決に加わることができるでしょうか。
不動産登記実務では、この取引は利益相反取引に該当しますが、甲は特別利
害関係人には該当しないと解釈されています(注1)。不動産の売買は会社間
の取引であり、代表取締役である甲個人は利益を得ることがないからという理
由です。
しかし、特別利害関係とは、決議について、会社に対する忠実義務を誠実に
履行することが定型的に困難と認められる個人的利害関係ないしは会社外の利
害関係を意味するとされ、上記のケースで、甲は特別利害関係人に該当すると
いう見解もあります。おそらく、学説等はこの考え方が主流なのではないかと
思います(注2)。
個人的には、B社の代表取締役でもある甲が、A社の取締役会で議決に参加
する場合、個人としての自分自身が利益を得ることがないからといって、A社
に不利になり、B社に有利になるような意見を不当に述べたり、議決権を行使
したりする可能性がないとは言い切れないと感じています。そのため、理論上
は、後者の見解に賛成です。
上記のようなケースでは、どちらの会社も甲が主要株主であることが多く、
利益相反取引ではあるものの、両者間でトラブルになるようなケースは少ない
のだろうと思いますが、該当・非該当の両説がある点で、実務を行う上では、
悩ましく感じる場合も少なくないかもしれないと思いました。
注1)青山修『補訂版 利益相反行為の登記実務』(新日本法規)156頁、
日本法令不動産登記研究会『8訂版 事項別 不動産登記の登記Q&A
210選』(日本法令)377頁以下。なお、これらの書籍では、異な
る見解もあることも紹介しています。
また、先例として昭和34年3月31日民甲第669号回答。
注2)落合誠一編『会社法コンメンタール8 機関【2】』(商事法務)
292頁以下、295頁。
2025.03.26(水)【フリーランス法第3条通知】(金子登志雄)
本欄閲覧の司法書士の中には当事務所同様に従業員もいない一人事務所の方
も多いことと存じますが、顧客からフリーランス法(昨年11月1日施行の下
記の特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)第3条通知(一種の
発注書)のことで問い合わせその他を受けていませんか。
(条文)
https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC0000000025
(概要)
https://www.jftc.go.jp/file/siryou1.pdf
私は2,3度受けていますが、ほとんどが①先生の事務所は従業員がいない
ということでよろしいですか、②きたる4月1日付け組織再編登記の業務報酬
は例年どおり〇〇万円でよろしいですか、などといった内容です。第3条通知
の記載事項だからです。
この法律は1人事務所を守るための法律ですが、不動産登記業務の場合は競
争が激しいため銀行や不動産屋から値下げやバックマージンを求められること
もあるのかもしれませんが、私が専門とする商業登記の場合は単価が低いこと
や、たまにしか登記仕事が発生しないためか、そのようなこともなく先生扱い
されていますから、保護される必要もなく、それどころか、いずれ顧客が3条
通知するのは面倒だから、従業員のいる事務所に鞍替えするなどという動きを
するのではないかという不安も生じる制度だと感じています。
今のところ、顧客が第3条通知(発注書)を作成する前に、メールで見積額
を当方に求め、その内容でメールの添付ファイルで発注され、「了解しました」
と返信するだけで済ましていただけるよう対応していますが、他の一人事務所
の司法書士に尋ねたところ、制度自体も浸透していないようですから、まだそ
う気にするほどでもなさそうです。そういう制度があることだけを頭の片隅に
おいておいてください。
2025.03.25(火)【校正について】(東京・鈴木龍介)
少し前に触れましたとおり、テイハン「登記研究」での連載「商業登記の変
遷」が終了しましたが、一連の営みを振り返ってみますと、執筆とともに「校
正」というものが非常に大きなウェイトを占めていたことを、あらためて実感
しました。
思い起こせば、これまで自著・他著を含め相当数の書籍や論文の「校正」を
行ってきましたし、ある意味で司法書士の業務は、まさに「校正」――たとえ
ば、議事録のチェックや契約書のレビュー――が中核であるといってもよいか
も知れません。
そのあたりが頭をめぐる中、これまで「校正」について、ちゃんと学んでこ
なかったことが気になりだしてきました。
まず、「校正」を広辞苑(第七版)で調べてみますと、「①文字の誤りをく
らべ正すこと。②校正刷りを原稿と引き合わせて、文字の誤りや不備を調べ正
すこと」とされています。ちなみに類似した用語で「校閲」というものがあり
ますが、こちらは「①しらべ見ること。②文書や原稿に目を通して正誤・適否
を確かめること」とされています。ただ、一般的に両者はあまり区別されるこ
となく用いられているようです。
次に、以下に掲げました「校正」に関連する書籍を読み漁ってみました(斜
め読みですが・・・)。あらためて、「校正」のルール等を把握することがで
きました。それとともに、私自身の「校正」についての現時点での認識等を以
下のとおり整理してみました。
「校正」とは、
1.誤字や脱字を正すこと(マスト)
2.事実(たとえば、年号や固有名詞)が正しいかを確認すること(マスト)
3.必ずしも平仄(たとえば、「等」と「など」)をあわせることではない
こと
4.滑らかな文章とすること(たとえば、前後の文節を入れ替える)
5.まずは素読したうえで、作業に入ること
6.ダブルチェックは重要であること(時間差を設けてとか、可能であれば
第三者の目で)
~関連文献~
・大西寿男『みんなの校正教室』(創元社、2025年)
・牟田都子『校正・校閲11の現場』(KTC中央出版、2024年)
・高橋秀実『ことばの番人』(集英社インターナショナル、2024年)
・『新編 校正技術〔講座テキスト版①~④〕』
(日本エディタースクール、2012年)
2025.03.24(月)【株式移転比率】(金子登志雄)
最近は株式移転の登記に関わることは少なくなりましたが、質問はよく受け
ています。
Q1:A社と資本関係のないB社とで共同株式移転によりC社を設立したい
のですが、CA間やCB間の株式割当比率はどう定めるのですか。
A1:組織再編の基礎は吸収合併です。AB間で合併するとして合併比率が
1:2だとすると、CA間ではAの1株にCの1株、CB間ではBの1株にC
の2株を割り当てるといったように、一方を基準に合併比率で思考するのが通
常です。
Q2:前例でAB間で合併比率を計算したら1:1.3でした。Bの1株に
Cの1.3株を割り当てると1株未満の端数が大量に生じてしまうのですが、
何か対策はありますか。
A2:これについては幸先裕明司法書士のXにあります。
https://x.com/hiroaki_kosaki/status/1894578465623720364
Q3:BだけがB種類株式を発行している種類株式発行会社のときに、AB
間で合併する場合には、AでもB種類株式を発行できるようにし、A発行のB
種類株式とB発行のB種類株式との比率を定めるでしょうから、それを基準に
CB間でも同様な処理をすればよいのですか
A3:ご意見のとおりです。
Q4:AだけがA種類株式を発行している種類株式発行会社のときは、合併
でA種類株式の発行はなく合併比率も想定することができませんが、株式移転
ではどうするのですか。
A4:CでA種類株式を引き継ぐのと同様にするのなら、Cでもそれを発行
することができるようにし、CA間で割り当て比率を決めるしかありません。
Q5:AとAの100%子会社DとでCを設立する共同株式移転を検討して
いますが、CD間では無対価になるのですか。
A5:対価を割り当てるとしたら割当先はAになり親子間で株式の相互持合
関係になってしまうため、CはDの株主AからD株式全部を引き継ぐが、見返
りにAには対価を交付しないことになります。CからA株主への対価交付でD
の分も評価されているので不都合もないでしょう。ちなみに、最初の会社計算
規則では「非株式交付完全子会社」という用語がありましたが、その後の規定
の簡素化で削除されています。
2025.03.21(金)【第3版出版のご報告】(仙台・立花宏)
もうすでにご存じの方もいらっしゃるようですが、2021年に第2版を出版
いたしました『商業登記実務から見た合同会社の運営と理論』につきまして、こ
のたび、第3版を出版することになりました。3月28日の発行予定です。これ
も、皆様のご指導、ご支援のおかけだと、心より感謝申し上げております。
https://x.gd/RmUfn
今回の改訂では、あらたに、「設立」と「組織再編」の章を設けました。これ
までの版で書いてきたのと同様に、単に結論を書くのではなく、できる限り、結
論にいたる考え方を重視して執筆したつもりです。それを記載することにより、
発展的な問題が出てきた際に、どういう方向に進むべきかの方針を考えるうえで
有益だと考えているからです。
また、実務に役立つ情報であれば、合同会社特有の問題でなくても、内容に含
めるようにいたしました。
たとえば、公告方法を電子公告とした場合、具体的に登記するURLはどうす
べきなのか。また、たとえば、合同会社が株式会社と合併する際、債権者保護手
続として、連名で公告等をする場合がありますが、この場合、株式会社の計算書
類に関する事項を内容とする必要があります。株式会社の公告方法が電子公告だ
った場合、登記されている公告方法は会社のウェブサイトのトップページのUR
Lになっていますが、具体的に決算公告をしたのがその下部のページで、トップ
ページと異なるURLだった場合、どちらを記載すべきか、といったことも記述
しております。
さらに、令和5年に、日本登記法学会様において、持分会社の持分の相続に関
する発表をさせていただきましたが、その後、さらに、その分野を深く掘り下げ
て考えてみたことがあり、その内容も反映しております。
合同会社に関与される実務家・専門家の方々に、少しでもお役に立つことがあ
れば幸いだと思っております。
2025.03.19(水)【押印の任意化の浸透度】(金子登志雄)
先般、久々に投資事業有限責任組合契約の登記を申請いたしました。申請人
である無限責任組合員が同一法務局管内の株式会社であったため、添付書面は
組合契約書と委任状だけで済みました。組合契約書は40頁程度もあったので
すが、ありがたいことに無限責任組合員が原本還付用のコピーも作成し一緒に
届けてくれました。
数日後、法務局より補正電話がありました。組合契約書の押印された印影が
実物よりも小さいので、等倍コピーしたものと差し替えてくれという内容でし
た。たぶん、コピー機ではなくスキャナーにかけたのでしょう。前にも他の会
社でありましたが、若干小さく写ります。
しかし、あとで、合併契約書と同じく契約書の印鑑は調査対象外ではないか
と疑問に思い、電話しましたら、投資事業有限責任組合契約の押印は別で印鑑
照合をするのだそうです。組合の定款と大差ないためでしょうか。
これと同様に微妙な場合に印鑑が任意かどうかは意外に知られていない場合
も少なくありません。例えば、取締役会設置会社の取締役の就任承諾書、清算
人・代表清算人の就任承諾書、発起人決定書などは押印が必須のように感じて
しまいますが、なくとも大丈夫なことは実験済みです。
まだ未実験ですが株式会社の代表者がAとBの2名で印鑑届はAのみの場合
のB代表の辞任は認印でよいといわれていますが(商登規則61条8項)、私
は認印さえ義務ではないと思っています。
2025.03.18(火)【『調停等の条項例集―不動産編―』】(東京・鈴木龍介)
今般、『調停等の条項例集-不動産編-』(司法協会)が発刊されました。
本書は2022年に刊行されました『調停等の条項例集―家事編―』に続く
第二弾として、今回も監修というかたちで携わりました。
http://www.jaj.or.jp/books/
本書は、経験豊富な元裁判官で、弁護士である筆者による丹念な検証等がさ
れた民事調停における不動産関係事案を集約した実務に直結した条項事例集で
す。
本書の内容としては、以下の目次のとおり、さまざまケースを想定したもの
となっていますが、登記実務という観点においても有用であり、司法書士とし
ても、いざという時に頼りになる一冊として手元に置いておいて損はないので
はないかと思います。
私自身、けっして得意とはいえない分野でしたが、ご縁があって微力ながら
お手伝いをさせていただき、たいへん勉強になりました。
第1章 不動産の所有関係に関する条項例
第1 売買に関する条項例
第2 贈与に関する条項例
第3 交換に関する条項例
第4 取得時効に関する条項例
第5 所有権確認に関する条項例
第6 共有に関する条項例
第2章 不動産の利用関係に関する条項例
第1 賃貸借に関する条項例
第2 土地の使用貸借に関する条項例
第3 区分建物(マンション)に関する条項例
第4 地上権・通行権等に関する条項例
第5 隣地からの妨害等に関する条項例
第3章 農地に関する条項例
第1 農地の売買に関する条項例
第2 農地の取得時効に関する条項例
第3 農地の所有権を確認し、不実の登記抹消に関する条項例
第4 農地の賃貸借に関する条項例
第5 農地に抵当権を設定する合意に関する条項例
第4章 登記に関する条項例
第1 未登記建物の登記に関する条項例
第2 中間省略登記に関する条項例
第3 更正登記に関する条項例
第4 変更登記に関する条項例
第5 抹消登記に関する条項例
第6 抹消回復登記に関する条項例
第7 真正な登記名義の回復に関する条項例
第8 登記上の利害関係を有する第三者の承諾に関する条項例
第9 登記引取請求に関する条項例
2025.03.17(月)【カタカナ語の功罪】(金子登志雄)
日本で使われる文字には、ひらがな、カタカナ、漢字の3種類があるのに対
し、お隣の中国では漢字のみ、韓国では現状では表音文字のハングルのみとい
う差があります。
よく使われる外国語や外国人の氏名につき、日本ではカタカナにすれば足り
るのに、中国では使用文字を考えなければならないのでしょう。米国大統領の
Trump氏につき、日本では読みをそのままトランプとすれば足りるのに、
中国では特朗普としなければなりません。たぶん、当初はどういう文字にする
のか議論があったことでしょう。
日本語は実に便利ですが、私は安易にカタカナ語を使いすぎるのではないか
と思っています。例えば、先般の鈴木さんの投稿でも、お上はオープンイノベ
ーションと使っていますが、なぜ開放的な技術革新などと日本語にしないので
しょうか。情けないことに、かっこよさを求めたとしか思えません。
ご承知のとおり法律関係者は単語の意味合いを重視しますから、ほとんどカ
タカナ語を使いません。民法177条の「第三者」の概念だけで、1冊の本が
できるほど意味合いにこだわるため、法律文章にはカタカナ語は避けられます。
登記の目的でもコンピュータさえ使えなかった時代もありました。
ところが、法律関係者以外は感覚的にカタカナ語を使います。例えば、容易
に「シード期の資金調達方法」などと使いますが、シード(seed、種の意味)
期というのは、創業前の準備段階のことですから、会社設立後の資金調達のこ
とであればアーリー(early)期というべきだとの批判もあるとおり、用語の使
い方が厳密ではありません。
情報化社会になり、やたらとカタカナ語が増え、単語の意味にこだわる私に
は負担の多い日が続きますが、皆様は違和感を感じていませんか。
2025.03.13(木)【取締役会の設置と代表権の変質】(金子登志雄)
現在は取締役がA一人の会社が4月1日付けで取締役BC及び監査役Dを選
任し取締役会設置会社及び監査役設置会社になるとして、従前の代表取締役A
を取締役会設置会社の代表者として選定しておかないと取締役会の設置の申請
権限に支障が生じるため4月1日の取締役会でAを代表取締役に選定しました
が、この取締役会議事録を登記申請で添付しなければならないでしょうか。
この問題につき、私は代表権の変質は登記事項ではないため添付不要だと思
っていましたが、登記所にはちゃんと決議したことをどう知らせるのかと思い、
添付したほうがよいのかなと考えてしまいました。司法書士仲間に尋ねたとこ
ろ、添付する方としない方とがありましたが、代表取締役の選定なら議事録に
押す印鑑に関する商業登記規則61条6項の問題はどうするのでしょうか。き
っと、Aが会社届出印を押し、新規の代表者選定でないことにするのでしょう。
取締役会の設置の登記はこれまでに何度も経験してきたのに、何をいまさら
迷ってしまったのか我ながら不思議に思い、過去の申請事例を調べたら、私は
取締役会や監査役を設置する定款変更の定款の附則で「取締役会設置後最初の
取締役はABC(代表取締役は引き続きA)とする」などと定める方法を採用
し、取締役会で選定していませんでした。
我ながらうまい方法を採用してきたものだと思いましたが、取締役会で選定
した場合は登記所にどう知らせるかという課題が残ります。委任状に記載する
か、説明メモを挟むことで足りるのか、規定がないので何もせずに済ますかで
すが、今のところ、委任状に記載しておくのが無難かなと思っています。皆様
はどうしていらっしゃいますか。
2025.03.12(水)【募集株式の払込金額とは】(金子登志雄)
そろそろ確定申告の期限ですが、もうお済みですか。私は仕事を手伝ってく
れている弟に手続を丸投げしていますが、もうすぐのようです。
途中経過を尋ねたところ、昨年はリハビリの訓練期間を含め2か月以上も入
院しましたが、入院中もテレワークと同様に仕事をしていたため、売上はほぼ
例年並みを維持し、高額の医療費控除が生じたことで、税額はぐっと減ったよ
うです。もっとも国家に税金を支払うのと医療機関に医療費を支払うのとは支
払先が相違するだけで、私の手持ち金が減ったことには変わりがありません。
さて、いつもの会社法の話題ですが、一般に払込みとは金銭のことで現物出
資は給付というのですが、「募集株式の【払込】金額」については、199条
1項2号に「募集株式一株と引換えに払い込む金銭【又は】給付する金銭以外
の財産の額をいう」とあり、現物出資の場合も含みます。
それだけでなく「A又はB」は「A及びB」を含みますから、同時に行う金
銭の払込みと現物出資は別々の議案にする必要はなく、1つの議案にまとめる
ことができます。典型例がDESのついでに、金銭出資をしてもらう場合です。
これを知らずに登記所から問い合わせを受けることもありますので、ご興味
のある方は拙著・『会社法実務〔全訂第2版〕』Q2-16-4をご確認くだ
さい。上場会社の実例を示しております。
2025.03.11(火)【スタートアップとは?】(東京・鈴木龍介)
「スタートアップ」という言葉をよく耳にしますが、どうも一義的な定義は
ないようです。
もともとの「startup」という名詞には、「起動」、「発足」、「草創」等
という訳が当てられています。一方で、ここでいうスタートアップは、1990年
代後半から2000年代初頭にかけて、シリコンバレーを中心としたIT企業の急成
長とともに浸透してきたとのことのようですが、Google(1998年創業)や
Amazon(1994年創業)も当初はスタートアップ(企業)として成長を遂げまし
た。
以上を踏まえつつ、諸々の情報等を総合しますと、スタートアップ(企業)
とは、革新的なビジネスモデルや技術を活用し、急速な成長を目指して、短期
間で市場を拡大し、大きな影響を与えることを目標とするという整理ができそ
うです。とりわけ、テクノロジーを活用したサービスやプロダクトを提供する
企業が多いのが特徴ともいえます。
ちなみに、スタートアップ企業に類似するものとして「ベンチャー企業」が
ありますが、スタートアップは「短期間での急成長」を重視し、ベンチャー企
業は「革新性や挑戦的」に重点を置くという感じでしょうか。
日本政府としては、岸田政権の2022年に、政府は「スタートアップ育成5か
年計画」を策定しました。
具体的には、
①人材・ネットワークの構築
②資金供給の強化と出口戦略の多様化
③オープンイノベーションの推進
の三本の柱を一体として強力に推進、実行するものとして重点分野と位置付け
ています。そして、2024年10月の石破総理の所信表明演説の中で、スタートア
ップの支援を引き続き進めると述べています。
(参考)
内閣官房:スタートアップ育成ポータルサイト
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/su-portal/index.html
「スタートアップ支援の最前線」加納拓也ほか
月刊登記情報758号50頁~57頁
2025.03.10(月)【トランプ流「常識の革命」とは】(金子登志雄)
トランプ氏の暴走(?)で世界中がてんやわんやですね。彼の関税中心の貿
易政策で私も持株の値段が大幅減少で迷惑を被っていますが、それ以上に、ト
ランプ米国とリベラル欧州との対立開始を興味深くみています。
米国民主党や欧州の支配勢力は、いわゆるリベラル勢力です。リベラルとい
うと人種への偏見やLGBTなど性的マイノリティへの偏見を戒め、移民にも
寛大で、温厚な保守というイメージが強いのですが、世界に価値観の多様化や
民主主義を広めるべきだとするお節介な紳士淑女の思考でもあるためトランプ
支持勢力などを野卑で教養のない下層階級だと見下す傾向があります(教養の
高い紳士淑女と思われたいハリウッド俳優などが民主党支持なのもこのためで
しょう)。
また、このお節介な民主主義の普及が各国の内政に露骨に干渉し(いわゆる
カラー革命などへの軍資金の支援)、反発したイスラム勢力のテロを招いただ
けでなく、イラクやウクライナ戦争につながりました。それで米国の大統領選
を有利にしようという意図もありました(民主選挙制度の負の側面です)。
これらの点で、リベラルは温厚な思想ではなく、口できれいごとをいうだけ
で、実際にはずる賢く立ち回るカネにも汚いご都合主義のエリート意識ではな
いかといわれはじめ(いま思うと、民主主義の世界への普及=経済のグローバ
ル化推進による他国の経済支配という側面もあったでしょう)、本音や現実を
重視しない点がここ数年で批判されてきたため、米国ではトランプ氏の勝利と
なり欧州では反移民の右翼勢力が力を増してきたわけです。
それでも、この理想を語るかのような表面上は温厚なリベラル価値観や経済
のグローバリズムが欧州と同様に日本でもいまだに支配的なためか、トランプ
によるウクライナ戦争の終結提案にはロシア寄りだなどと非難轟轟です。まる
でトランプ氏に対し変人扱いです。
しかし、イーロン・マスクによる改革は民主主義の普及の名のもとに米国資
金を各国の反政府組織に援助していたUSAID(米国際開発庁)を閉鎖して
各国の内戦を資金援助で煽る第2のCIAであるNED(全米民主主義基金)
潰しによる紛争の火種つぶしですし、ウクライナ戦争を米ロの代理戦争という
現実を直視しているからこそ、ゼレンスキーを当事者として扱わないことや、
英仏の平和維持軍ではなく、鉱物の共同開発を米国がウクライナで開始するこ
とでロシアの侵略を平和的に抑制しようとするなど、こうしたトランプの「常
識の革命」は画期的アイデアではないでしょうか。
支持不支持は別として、この動きを正確に把握し理解しないと、日本は世界
の現実の潮流に乗り遅れるのではないかと心配です。
2025.03.06(木)【「3親等以内の親族」とは】(仙台・立花宏)
先日、法務省の登記統計を見たところ、昨年12月までの月別の集計が反映
されていました。集計してみたところ、昨年1年の合同会社の設立登記申請件
数は41,774件で、一昨年より1千件程度増加です。参考までに、株式会
社は98,671件で、一昨年より2千件程度減少でした。なお、どちらの会
社も、昨年9月以降は設立数が一昨年の同時期よりも減少傾向で、個人的には、
その点が気になりました。
さて、前回に引き続き、改正私立学校法を勉強していて個人的に気になった
点の話題です。ただし、私立学校法の内容そのものに関する話題ではありませ
ん。
私立学校法では、理事の構成についての制約があり、31条6項には、次の
ような条文があります。
「理事は、他の2人以上の理事、1人以上の監事又は2人以上の評議員と特
別利害関係(一方の者が他方の者の配偶者又は3親等以内の親族である関係そ
の他特別な利害関係として文部科学省令で定めるものをいう。以下同じ。)を
有するものであつてはならない。」
ここで気になったのは、内容ではなくて、「配偶者又は3親等以内の親族」
の部分です。「配偶者」と「3親等以内の親族」を分けて記載しています。
この点について、ある文献では、配偶者も3親等以内の親族に含まれるので、
「配偶者又は」の部分は本来不要な記載なのだという解説がありました。
ただ、この「配偶者又は3親等以内の親族」というように、「配偶者」と
「〇親等以内の親族」と分けて規定しているのは、私立学校法だけではなくて、
たとえば、後見開始の審判の請求権者を規定している民法7条でも、「配偶者」
と「4親等内の親族」は分けて規定しています。
その一方、同じ民法でも843条2項では、成年後見人の選任の申立権者と
して、「成年被後見人若しくは親族その他の利害関係人」と規定しており、配
偶者は親族ですから(民法725条2号)、この規定の中の親族には配偶者が
入ることは間違いないと思います。
そうしてみると、「〇親等内」とつける必要がある場合には、「配偶者」と
「〇親等内の親族」というように、あえて分けて記載しているのだと思いまし
た。
青山道夫・有地亨編『新版 注釈民法(21) 親族(1)』(有斐閣)
96頁には、次のように記載されています。
「民法上、配偶者は親族である。しかし、配偶者はそれ自体が血族関係や姻
族関係をなすものではなく、自己と同列にあるものであるから、もとより親系
はなく、また親等も尊卑もない。いわゆるゼロ親等であって~」
あくまでも、個人的な想像にすぎませんが、配偶者は親族ですが、“親等が
ない”という前提で考えれば、「3親等以内の親族」としてしまうと、そこに
は含まれなくなるため、分けて規定しているということなのかもしれないと思
いました。
いままでこうした部分は読み流してしまっていた部分でしたので、条文は丁
寧に読むと、いろいろと考えさせられることがあると、あらためて思いました。
2025.03.05(水)【「電子署名」について】(島根・根来川弘充)
現在コンピューター化された登記申請においては、「電子署名」が求められ
ています。
この「電子署名」とは、法律等で指定を受けた認証機関によって証明ができ
るファイルやカードを利用して、証明しようとするデータに記録をつけるもの
であり、タブレット等に直接サインをしたものは、「電子署名」ではありませ
ん。
しかし、普段の生活においては、タブレットに「サイン」をする機会が増え
ています。クレジットカードによる決済、ホテルのチェックイン、また、銀行
や保険での手続きなど、これからますます増えるものと思います。
多くの方がこの「サイン」を「電子署名」と考えておられると思いますが、
法律の定義による「電子署名」は、まったく異なるものであることは、是非、
知っていただきたいと思います。
署名の一番の意味は、署名した文書の内容を確認したという点を公にするこ
とにあります。書面と一体化しているからこそ、署名者本人が確認した範囲が
紙面内であることが明確になされています。
一方でデータはというと、範囲に制限はありません。さらには複製もできま
す。
タブレットでサインをした本人の意思から離れたところになされる危険があ
ることには、十分ご注意いただきたいと思います。
2025.03.04(火)【法人の数~士業法人】(東京・鈴木龍介)
前回は主な法人の数を取り上げましたが、今回は、いわゆる士業法人の数
(主たる事務所ベース)を見てみたいと思います。
まず、士業法人の中で最も数の多い税理士法人については5,124法人(個人
の登録者は81,555人。以下に同じです。)となっています(2025年1月現在)。
【日本税理士会連合会―税理士登録者・税理士法人届出数】
https://www.nichizeiren.or.jp/cpta/about/enrollment/
次に社会保険労務士法人ですが、2,453法人(45,386人)となっています
(2024年3月現在)。
【社会保険労務士白書2024年版―登録状況】 https://www.shakaihokenroumushi.jp/LinkClick.aspx?fileticket=bJ4zDbdedbg%3d&tabid=203&mid=2612
以下、法人数の多い順となりますが、弁護士法人については1,691法人
(45,808人)となっています(2024年3月現在)。
【弁護士白書2024年版―弁護士法人の現状】
https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/statistics/2024/1-4-2.pdf
行政書士法人については1,431法人(52,796人)となっています(2024年
10月現在)。
【日本行政書士会連合会―各都道府県の行政書士会所在地・会員数等】
https://www.gyosei.or.jp/about/disclosure/membership
司法書士法人については1,273法人(23,296人)となっています
(2025年2月現在)。
【日本司法書士会連合会―全国司法書士会一覧】
https://www.shiho-shoshi.or.jp/association/shiho_shoshi_listh/
土地家屋調査士法人については617法人(15,465人)となっています
(2024年4月現在)。
【日本土地家屋調査士会連合会―概要】
https://www.chosashi.or.jp/association/about/summary/
弁理士法人については424法人(11,857人)となっています
(2024年5月現在)。
【日本弁理士会―最新の会員分布状況】
https://www.jpaa.or.jp/cms/wp-content/uploads/2024/08/dstribution_20240531.pdf
監査法人については287法人(35,532人)となっています(2024年3月現在)。
【金融庁―監査業界の概観】 https://www.fsa.go.jp/cpaaob/shinsakensa/kouhyou/20240719/2024_monitoring_report_chapter1.pdf
2025.03.03(月)【組織再編と代表者変更と住所非表示】(金子登志雄)
2月25日の本欄で、きたる4月1日付合併等の組織再編の準備中だが、突
然に近く、存続会社等の代表取締役が3月31日に取締役を辞任し、4月1日
付で新たに選任される取締役が新代表取締役に就任することになり、手続がや
やこしくなったと嘆きましたが、そこに代表取締役の住所非表示が加わるとこ
ろも現れ、ますます面倒になってきました。
代表者の住所非表示はまだ未経験です。業務を受任する際に、あえて「住所
非表示が可能になりましたが、表示することに何か不都合がございますか」と
尋ねると、ほとんどが「表示に問題ない」と答えてくださるからです。
表示が必要な会社は、①DV被害者が加害者に追いかけられないようにする
ため、②上場会社の代表者がクレーマーや新聞記者などから自宅まで訪問され
ることを避けるためなど典型例のほかは、③解雇された従業員などが逆恨みで
SNSで会社を誹謗中傷し社長の自宅を晒すような場合、④他と紛争が生じ、
暴力団等も登場し、家族にまで危害を加えると脅迫されている場合、⑤社長が
選挙に立候補し、対立候補からSNSで誹謗中傷されている場合(兵庫県知事
選挙問題で自死した竹内元議員のようなケース)などが思い当たります。
このような可能性がほとんどないのであれば、「表示に問題ない」という返
事になるのですが、2月24日に開催された兵庫県政の正常化を求める県民集
会」では、この集会に反対の斎藤知事支持者も参加し、N国党支持者並みに盛
んに聴衆の顔写真を写していたようですから(何かあったらネットに晒すため
か)、こういうSNS社会が進めば、いずれは住所は登記不要に進むのかなと
も思ってしまいました。いずれにせよ、制度も手続ももっと単純化して老人司
法書士にも負担にならないようししてほしいものです。
2025.02.28(金)【目的として不記載事業の分割】(金子登志雄)
会社分割では営んでいない事業に関する権利義務の分割のようにみえると登
記所からこれでは受理できないといわれることもあります。私も過去に一度だ
けありましたが、それは登記されている事業目的である〇〇〇内の事業のこと
だと説明して納得してもらいました。
これに関連して事業目的には記載されていないが株式保有事業に関する権利
義務の分割は是が非かと商業登記倶楽部の実務相談で質問されましたので、資
産保有については事業目的に列挙されていなくても附帯事項に含まれるから問
題ないと思うし、事業に触れず〇〇会社の普通株式〇〇株の承継という公告実
例もあるから大丈夫でしょう、ただし、不慣れな登記所もあるので、事前確認
しておくのが安全だと答えておきました。
上記のとおり、そもそも分割公告では事業名は必要的公告記載事項とされて
いません。何かいい実例はないかなと最近の官報を閲覧してみましたら、偶然
にも下記の2番目にありました。(すぐに開けなくなりますので、保存してお
くことをお勧めします)。
https://kanpou.npb.go.jp/20250221/20250221h01410/20250221h014100027f.html
1番目の「資産管理事業」も4番目の「社債関連事業」もおそらく事業目的
としては登記されていないでしょうが、事業として営んでいると予測される表
現のため登記で問題にされることはないと思います。
実例は先例と同じような価値があります。いつか同じ経験をするでしょうか
ら、上記の官報頁は保存しておくことをお勧めします。
2025.02.27(木)【兵庫維新の処分結果】(金子登志雄)
本日は会社法ネタが思い付かないため、時事問題の話題です。
さて、情報漏洩に関与した2名の県会議員に対する兵庫維新の処分は、事前
に居直り度が大きい増山議員は除名で岸口議員は離党勧告といわれていたのに、
結果は逆で岸口氏が除名、増山氏には離党勧告でした。
岸口議員は、片山元副知事が風邪で立花氏と会えないからという理由で、間
に立った民間人A氏に急遽呼ばれて参加し、片山氏の使者らしき人物が持って
きた怪文書(竹内元議員が騒動の黒幕だなどといった内容)を預かり立花氏に
手渡しただけですから、ある意味で運悪く巻き込まれただけで罪は軽いと私は
思っていたため意外でした。
竹内議員の死亡をも引き落とした切っ掛けに軽率にも関与したという評価が
なされたのでしょう。つまり、その後大きな問題になることを容易に予想する
ことができたのに、なってもかまわない、なったほうが好都合だなどと計算し
てそのまま怪文書を渡した可能性が高いなどといった評価でもなされたのかも
しれません。百条委員会の副会長という立場も影響したのかもしれません。
ところで、その仲介者である民間人のA氏が誰であり(地元では選挙通の大
物でした)、その会場になったホテル(のロビー?)にいた自民党の国会議員
が誰かはもうネットで明らかにされていますが、この兵庫県の騒動に新たな登
場人物の出現で、まだまだ終わりそうもありません。選挙史に残る大事件にな
ることは間違いないので、引き続き注視してまいります。
2025.02.26(水)【各種法人の数】(東京・鈴木龍介)
執筆の関係がございまして、会社以外の各種法人の数を調べましたので、主
な法人のデータを備忘としてエビデンスとともに、こちらにアップさせていた
だきます。
法人の数の多い順ということで、
宗教法人は 178,921法人となっています。内訳としては文部科学大臣所轄の
1168法人のうち仏教系が488法人、キリスト教系325法人、神道系210法人、そ
の他145法人です。都道府県知事所轄の177,753法人のうち神道系84,028法人、
仏教系76,280法人、キリスト系4,535法人、その他12,910法人です(2023年)。
【文化庁「宗教法人と宗務行政」】
https://www.bunka.go.jp/s eisaku/shukyohojin/gaiyo.html
医療法人は58,902法人となっており、年々微増傾向が見られます(2024年)。
【厚生労働省:医療法人・医業経営のホームページ】
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001266062.pdf
特定非営利活動法人(NPO法人)は49,580法人となっています。制度創設時の
平成10(1998)年から増加していったものの、近年は関係者の高齢化や財務的な
問題等から微減傾向が見られます(2024年)。
【内閣府「NPOホームページ」】
https://www.npo-homepage.go.jp/
社会福祉法人は 21,074法人となっており、多少鈍化はしているものの増加傾
向が見られます(2022年)。
【e-stat政府統計の総合窓口 福祉行政報告例/
令和4年度 福祉行政報告例 民生委員・社会福祉事業】
https://is.gd/aLCS1u
学校法人は 7,623法人となっています。内訳としては都道府県知事所轄の幼稚
園法人が 3,800件以上と約半数を占め、次いで保連携型認定こども園法人が
1,100法人で年々増加しています。文部科学省所轄の学校法人は670法人で、その
うち大学法人が約 570法人で過去最多となる一方、閉学や4年制大学への移行に
より減少している短大法人は100法人を切っています(2021年)。
【文部科学省「学校法人数の推移」】
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/main5_a3_00003.htm#topic4
農事組合法人は9,181法人となっています(2024年)。ちなみに、農事組合法人
を含む農地所有適格法人は21,213法人です(2023年)。
【e-stat政府統計の総合窓口 福祉行政報告例/
令和4年度 福祉行政報告例 民生委員・社会福祉事業】
https://is.gd/GpRL6y
【農林水産省「農地をめぐる事情について」】
https://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/wakariyasu.html
(注)本稿は、本来は昨日の火曜日に掲載すべきものでしたが、勘違いで1日遅
れになりました。お詫び申し上げます。
2025.02.25(火)【組織再編と代表者変更】(金子登志雄)
(注)火曜日で鈴木さん担当ですが、連休明けの25日は水曜日と勘違いし
本題にしてしまいました。鈴木さんの投稿は明日水曜日に掲載します。鈴木さ
ん、ごめんなさい。
この連休は、兵庫県知事選挙問題につき関心があったため、23日には候補
者だったN国立花氏に選挙結果を左右するほどの他を貶めるデマ情報を流して
いた兵庫県維新の県会議員3人の大人とは思えない釈明の記者会見を、24日
には神戸市内で大盛況で開催された「県政の正常化を求める県民集会」のライ
ブをユーチューブでみていました。
前者の記者会見では、信じがたいことに質問者に記者ではない維新関係者や
斎藤知事支持者も混ざっており、みえみえの八百長を感じさせるものになり、
主催者の維新は何をやっているのかといいたくなりました。
さて、ただいま4月1日の合併等の登記準備中ですが、3月決算会社が多い
ためか、期首の4月1日には存続会社側の役員に人事異動があり、代表取締役
も交代するとのご連絡を何件か受けました。例えば、現状では取締役ABCD
(代取A)だが、ABが3月31日に取締役を辞任し4月1日からは取締役C
DEF(代取E)体制にするというものです。全て取締役会設置会社です。
数年前までは臨時に定款変更し代表取締役は株主総会でも選定することがで
きるようにすれば代表取締役の予選になっても問題ないのでとお勧めしてきた
のですが、多くの場合「定款変更は稟議事項であり面倒だ」と反応されてしま
うことと、印鑑証明書の準備がコンビニでも容易に可能になったためか、いま
は、「4月1日の午前中に取締役会を開催しE代表を選定した取締役会議事録
を午後4時までに持参してくださらないと、1日付けの登記になりませんが、
ご了承ください」というだけにしています。
組織再編というと効力発生日に登記という例が多いのですが、そうでない登
記に私も慣れていくことにします。
2025.02.20(木)【債権者異議申述期間】(金子登志雄)
仲間内のメーリングリストで、資本金の額の減少や合併等の組織再編の債権
者異議申述公告のひな形に「本公告掲載の翌日から一箇月以内にお申し出くだ
さい」とあるが、この「本公告掲載の翌日から」は単に一箇月の計算の方法を
示しただけで(民法140条参照)、掲載日にも当然に異議を出せるという意
味か、それとも「お申し出ください」にかかり、掲載日での異議申し出は受け
付けられないのかという話題が提出されました。
一昨日2月18日付け官報に「本公告掲載の翌日から令和7年3月18日ま
でにお申し出ください」という公告が掲載されたため、この公告は「2月19
日から3月18日まで」としか読めず、2月18日の異議は対象外なのかと疑
問に思ったための話題提供だそうです。
会社法の条文をみると、「一定の期間内に異議を述べよ」とあるので、始期
と終期で一定期間を示したのだから、その期間外の異議は無意味だという解釈
もできそうです。
しかし、会社法806条3項の「株主総会の決議の日から二週間以内に、そ
の株主に対し、新設合併等をする旨・・・を通知しなければならない」では、
手続遅延を防止するために期限を設けただけで、総会前に通知することもでき
ると解釈されているのと同様に、債権者異議申述期間の官報公告ひな形も期間
の満了日を指定しただけだという解釈のほうが自然でしょう。
もし、始期からの期間限定説での解釈では、2月中旬に「令和7年2月25
日から1か月以内に」としたら2月20日や21日の異議は無意味になってし
まいます。
また、個別催告では「〇月〇日までに異議をお申し出ください」とするだけ
で、本催告到着の翌日からなどと加えません。公告でも同じであり、「(本公
告掲載時より)1か月以内に」とすれば十分だが、1か月の満了日に疑義が生
じては困るため、民法140条の趣旨をひな形の文面に加えただけでしょう。
実務ではおそらく公告掲載以前に「異議あり」と申し出ても、有効な異議と
されるでしょうから、以上は、あまり意味のない議論ですが、面白い着眼だと
思いました。
なお、個別催告の場合に「令和7年3月18日までにお申し出ください」で
18日が祝日の休日だとすると、1日延びますが、官報公告で「本公告掲載の
翌日から令和7年3月18日までにお申し出ください」だと1日延びるのか、
それとも無効公告になるのでしょうか。官報屋さんがすぐに気づいてくれ訂正
を要求されるでしょうが、そのまま最後まで気づかずに掲載された場合は、登
記でどう扱われるでしょうか。
2025.02.19(水)【禁錮以上の刑に処せられ~】(仙台・立花宏)
改正私立学校法が今年の4月から施行になるため、あらためて条文を見直し、
勉強し直しています。そんな作業をしていると、いろいろと気づかされることが
あります。たとえば、学校法人の理事の欠格事由には次の事項があります。
「学校教育法9条各号のいずれかに該当する者」(私立学校法31条1項3号)
そして、この学校教育法9条の中に、次の事項が定められています。
「禁錮以上の刑に処せられた者」
これにより、禁錮以上の刑に処せられた者は、学校法人の理事になることはで
きません。それは理解できたのですが、この欠格事由には、会社法の取締役等の
欠格事由(会社法331条4号)にあるような、「その執行が終わるまで又はそ
の執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)」とい
う規定がありません。
そうすると、一度、禁錮以上の刑に処せられた者は、今後は学校法人の理事に
なることができないのでしょうか。それはちょっと過剰な規制のような気がしま
す。
そこで、調べてみたところ、刑法には次の規定があり、この要件に該当すると、
刑の言い渡しは効力を失うので、以後、欠格事由に該当しなくなり、理事になる
ことができるようです。
(刑の全部の執行猶予の猶予期間経過の効果)
第27条 刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期
間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。
(刑の消滅)
第34条の2 禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰
金以上の刑に処せられないで10年を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失
う。(以下、略)
細かいところですが、こうした禁錮以上に処せられた場合の扱いについても、
法律によっては、その法律だけではなく、関係する法律の条文を見なければわか
らないのだと、あらためて勉強になりました。
なお、参考までに、上記の会社法と私立学校法の条文の「禁錮以上の刑に処せ
られ」の部分ですが、令和4年改正刑法(令和4年法律第67号)により、禁錮
刑と懲役刑が廃止され、拘禁刑に統一されたため、改正刑法が施行される今年の
6月1日以降は、「拘禁刑以上の刑に処せられ」となります(「刑法等の一部を
改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の61条及び209
条)。
2025.02.18(火)【連載終了「商業登記の変遷」】(東京・鈴木龍介)
平成30(2018)年から6年超、全70回にわたり、テイハン「登記研
究」誌上で連載をしてきました「商業登記の変遷」が、本年2月の924号を
もちまして最終回を迎えました。
本連載は、月刊誌の連載であり、いわゆる続きモノでして、この6年間、大
げさに言いますと、日々、資料の収集・整理、執筆、校正を繰り返した感があ
り、結構、大変でした。連載が終了して、正直のところ安堵しています。
本連載の執筆等の中で歴史を学ぶことの必要性と重要性についてあらためて
強く認識した次第ですが、商業登記制度を検討等するにあたっては、これまで
の変遷をたどることは不可欠であり、その具体化を試みたものが本連載でした。
130年を超える我が国の商業登記制度に関連する資料は相当数にのぼり、
かかる作業は予想以上に困難なものでした。本連載を終える現時点においても、
残念ながら不十分であり、不完全であることは否めませんが、検索・収集した
資料は、今後の検討等に資する、ある種のアーカイブとして残すことができた
のではないかと愚考しています。
一方で、過去の事実を可能な限り忠実に記録することを主眼としましたとこ
ろ、あえて私の意見等は差し控えることとしましたが、そのあたりについては、
別の機会に披瀝できればと思っています。
2025.02.17(月)【老兵は去るべきか(久々の供託依頼)】(金子登志雄)
商業登記の手続ですが、株主リストや実質支配者、代表取締役の住所非表示
制度など私の得意分野である実体法の解釈以外に知るべき手続が増え、どうも
勉強意欲が湧かず、本欄のネタにも困ってきました。そろそろ役割を終えた老
兵は去れということでしょうか。
そんなことを思っていたら、顧客から買掛債務が債権譲渡されたので、債権
譲受人に支払ってよいものか不安なので、弁護士事務所とも相談した結果、供
託をお願いしたいという依頼がありました。供託手続のことは20年以上も前
の過去にわずかに経験があるだけのため、あわてて法務省の下記を調べてしま
いました。
https://www.moj.go.jp/MINJI/kyoutaku.html
この供託Q&AのQ25をみて、債務者が不安でも債権者が誰かが確定して
いるなら供託は債権者不確知の要件を満たさず無理だと思い、司法書士仲間に
問い合わせたところ、いまや人材豊富になった急成長中のTOSグループから、
要旨「原則としてご意見のとおりだが、その金銭債権に譲渡禁止特約が付され
ていれば、令和2年に新設された民法466条の2により供託が可能だ」とご
連絡をいただきました。
民法は昔から得意分野ですが、商業登記業務で調べることもほとんどなく、
改正にも無頓着でしたが、譲渡禁止特約があるなら債権譲渡に異議ありで債権
者不確知として供託可能であることはすぐに理解できました。
ただ、民法466条の2の存在さえも知らなかったのですから、やはり私は
老兵も同然のようです。TOSグループのような若手がフォローしてくださる
ので、助かっています。
2025.02.13(木)【官報の組織再編公告文】(金子登志雄)
昨日は官報公告の話題にしましたので、ついでですから、官報公告文はひな
形どおりでなくてもよいことを説明しておきましょう。
例えば、貸借対照表の開示につき、アドレス以外の場合は、
-----------------------------------------------------------
なお、最終貸借対照表の開示状況は左記のとおりです。
掲載紙 官報
掲載の日付 令和六年〇月○日
掲載頁 〇〇頁(号外第〇〇号)
-----------------------------------------------------------
がひな形ですが、本文に含めて次も可能です。
-----------------------------------------------------------
なお、最終貸借対照表は、令和六年〇月○日付官報(号外第〇〇号)〇〇頁
に公告しております。
-----------------------------------------------------------
よく質問されるのは、吸収分割の承継事業ですが、私の場合は、吸収分割契
約に定める内容が短ければそのまま記載しますが、長文の場合には、「契約に
定める事業に関する権利義務の承継」とします。
次に、A社がB社とC社とD社に吸収分割する際の吸収分割につき、官報の
ひな形のように承継会社を主語にして、BA分割、CA分割、DA分割の3つ
の公告にするのではなく、分割会社を主語にして、「左記会社は吸収分割して、
AはBに対しては・・・、Cに対しては・・・、Dに対しては・・・」と一括
した内容にすることも可能です。
上記のような公告をみたら金子だなと思ってください。もっとも、公告文を
こうしたいと思っても慣れないと不安なものです。そのためにも実例をいくつ
か保存しておくことと、これで大丈夫だと教えてくれる公告屋さんの担当者と
親しくなっておくことです
なお、「合併及び吸収分割公告」のようなひな形にないものもたまに見受け
ますが、当局としては想定外ですから、避けたほうがよいでしょう。
2025.02.12(水)【インターネット版官報】(金子登志雄)
盗まれた選挙ともいわれる全国的に話題の兵庫県知事選挙問題ではPR会社
に対する強制捜査が開始され新たな局面に入りました。
知事の支持層内でも内紛が生じはじめたようで、告発者で自死した県民局長
の10年で10人と不倫や同じく自死した知事追及者の竹内前議員が反知事の
黒幕だとかのN国党の立花氏が繰り返していたデマ情報の情報源が何と百条委
員会の副委員長である維新の県会議員だったと立花氏にばらされるなど、混沌
としてまいりました。今後の展開に要注目です。
さて、登記申請の際に国立印刷局の電子署名付きインターネット版官報を提
出し紙官報は提出しない方が増えていると思うのですが、なぜか、Microsoft
Edgeでは、電子署名の確認ができなくなりました。印刷マークと設定マークの
間に存在する「名前を付けて保存」のマークが消えているのです。
この2月は4月1日付再編の公告がなされることが多いのに、困ったものだ
と思い、官報屋さんに尋ねたところ、画面を表示して右クリックすると、名前
を付けて保存のマークが出てくるとのことでした。人騒がせな改良ですね。な
お、Google Chromeでダウンロードしたものは従来どおりでした。
ついでながら、4月からはインターネット版官報が正式な官報になり、紙官
報は官報掲載事項記載書面の位置付けになり無料提供はなくなり、掲載料金の
改訂もあるようですので、官報屋さんにご確認ください。
2025.02.10(月)【豪雪地帯での業務は?】(金子登志雄)
報道によると雪国での積雪量がものすごいようですね。家の前の道が消え、
ご近所のコンビニに行くのも大変なようです。とくに老人世帯は雪下ろしがで
きず、お困りだとか。
地方では司法書士業務に車の運転が必須ですが、雪国での皆様はどうしてい
るのでしょうか。昔と相違し登記所への出頭は不要になっていますが、補助者
の方は事務所までの通勤に、また郵送のための郵便局やポストまでの外出に苦
労していないのでしょうか。それとも雪国でも豪雪は山間部だけで、司法書士
事務所のある市街地では、それほどの苦労はないのでしょうか。
ふと、日本よりもっと寒そうな北欧諸国やシベリアでの生活が気になりまし
たが、調べたところ、日本が世界1の豪雪国のようです。つまり、西高東低の
気圧配置の冬になると、大陸から吹いてくる風が日本海で水蒸気を含んで、日
本大陸の山脈にぶつかり、日本海側に重いドタ雪を降らせるのだとか。青森県
が一番の豪雪地帯のようです。
私の故郷群馬県でも北部は雪が多いのですが、私の育った中西部地域では年
に2、3回、4、5センチの雪が積もる程度でした。ただし、何度か、新潟県
にスキーに行きその時に感じたのですが、雪国では家の柱などが実に頑丈に作
られており、部屋の中にはストーブもあるため実に暖かいのに対し、中途半端
な群馬県中部は家の中がもっとも寒いのではないかと感じましたが、たぶん、
仙台の立花さんや日本海側の島根県でも山間部ではない市街地生活の根来川さ
んも同じではないでしょうか。
なお、昨年後半のリハビリ病院入院中に理学療法担当の若い方から「金子さ
ん、いまのスキー場はスノーボード全盛ですよ」と私の認識につき改められま
したので、こんなことでも時代の変化を感じてしまいました。
2025.02.06(木)【スペック】(仙台・立花宏)
導入してから間もなく5年になる業務用のパソコンの動作がだいぶ鈍くなって
きました。事務機器関係のリース等をお願いしている会社の担当者の方に見ても
らったところ、ウイルス等ではないようで、ハードディスクの調子がよくなさそ
う(タスクマネージャーで確認すると使用率が100%になっていることが多い)
なのと、メモリ(8GB)も少し不足気味かもしれないとのことでした。
ハードディスクの交換とメモリの増設を検討したのですが、もう5年近く使用
しており、他の部分も劣化しているでしょうから、現在、新しいパソコンの導入
検討しています。
いろいろと調べてみていて、目を引くのは高性能な機種です。また、5年くら
いは使用するでしょうから、あまり低い性能のものは避けようと思っています。
ただ、あまり高性能なものを導入しても、その性能のほんの1部しか使用しない
ような気もして、悩んでおります。同業者の皆様はどのくらいの物を使用してい
るのでしょうか。
マイカーの購入を例にすると、私は近所に買い物に行くときに使用するくらい
なので、どうせならとたくさんの人数が乗れるようにとバスを購入しても、そん
なたくさんの人数が乗車する機会はないでしょうし(もっとも、私の運転免許で
は運転できないですが)、時速300キロ以上でるような高性能なスポーツカー
を購入しても、その性能を使うことは1度もないでしょう(ただ、所有している
だけでわくわくするかもしれません)。
ところで、話しは変わりますが、法務省の登記統計の昨年の月別の数字が11
月まで反映されていました。合同会社の11月までの設立数累計は3万8700
程で、おそらく年間4万2千前後(一昨年より千件程度増)になるのではないか
と予想しています。参考までに株式会社の11月までの累計は9万1400弱で、
昨年は年間10万件まではいかず、一昨年よりも少し減るのではないかと予想し
ています。
そうすると、合同会社の割合が少しではありますが、また、増えることになり
ます。
会社を設立する際、株式会社か合同会社が選択肢になることがほとんどだと思
います。設立を希望される方は、どのような観点から設立する会社類型を選択し
ているのでしょうか。私達司法書士も、どちらを選択すべきか、相談を受けるこ
とがあると思います。株式会社と合同会社の「スペック」(?)(注)をわかり
やすく説明し、どちらがより、依頼者の目的に沿うのかを理解いただけるように
しなければならないと思いました。
注)ちなみに、昨年10月から代表取締役の住所非表示措置の制度が施行されて
いますが、合同会社はこの制度を利用することができません。そのために、当
初は合同会社での設立を希望していた方が、この制度を利用したいという希望
があり、株式会社を選択するという事例もあるようです。こうした「スペック」
も説明が必要なのだと思います。
2025.02.05(水)【合併等手続準備月】(金子登志雄)
2月になりました。組織再編専門事務所としては4月1日付合併等の公告や
らで準備の仕事が増える月になります。
当事務所も4月には数個の再編を依頼されているため、今月は最低限公告に
ミスが生じないかにつき注意しています。というのは、合併契約書や議事録を
ミスったなどは、当事者だけで修正できますが、外部に公表してしまう公告だ
けは自分達の内部だけでは修正することができないからです。
次に気になるのは許認可の移転です。とくに運送事業は再編の効力を左右す
るものが少なくないので、気になります。4月にも運送関係の再編が1件あり
ますが、会社の方で認可を要しない証明書を取得してくれるようで、これは大
丈夫でしょう。
続いて気を付けるのは、今年の4月にもありますが、甲乙合併と丙乙吸収分
割登記の併存です。吸収分割を必ず先行して登記しないと、吸収分割登記が当
事者の一方が合併解散済みということで登記不可能になるからです。
2025.02.04(火)【商業登記ハンドブック(第5版)】(東京・鈴木龍介)
今般、『商業登記ハンドブック(第5版)』(商事法務)が発刊されました。
https://www.shojihomu.co.jp/publishing/details?publish_id=5517&cd=3132&stat
同書は商業登記に携わる司法書士にとっては座右の一冊であり、当事務所で
もおそらく使用頻度がもっとも高い書籍だと思われます(第4版もけっこう傷
んでいる感じです。)。
商業登記関係の書籍や論文を書くにあたっても引用・参照の書として外せま
せんので、私がこれまで携わった書籍の改訂があった際にはメンテナンスが必
要になりそうです。
著者の松井信憲氏は、現在「法務省大臣官房司法法制部長」を務められてと
なっていますが、かつては民事局の商事課の局付や課長を歴任された、いわゆ
る官側での商業登記のオーソリティです。
第5版については、まだザッとしか拝見しておりませんが、はしがき等を見
てみますと、株主総会資料電子提供制度の創設や支店所在地登記の廃止のほか、
バーチャルオンリー型株主総会の実現、定款認証に係る公証人手数料の見直し、
実質的支配者リスト、旧氏の記録柔軟化やDV被害者等住所非表示措置、いわ
ゆるストック・オプションプール、代表取締役等住所非表示措置等のあらたな
制度が盛り込まれているようです。
目次はシンプルに変更されていますが、「事項索引」が追加されているとと
もに、参照ページが追加されたのは相当に使い勝手がよくなると思われます。
ちなみに、情報量は増えているはずですが、第4版と比較してページ数も価格
も変わっていません。
同書については必要に応じて、必要な箇所等を参照するという利用になると
思いますが、しばしばお世話になることは間違いないところですので、気にな
る記述等がありましたらこちらにアップさせていただこうと思っています。
2025.02.03(月)【「年賀状」について】(島根・根来川弘充)
私は、今年も年賀状を出したのですが、「もう出すのをやめます。」「今年
で最後にします。」と連絡をいただいた方が例年より多かった気がします。
あるニュースでは、全国で発送した枚数が3割減ったとも言っていました。
私は、令和最初の年始になる令和2年にやめようと思ったのですが、やめられ
ませんでした。
今年なぜ、多く減ったか原因を考えますと、郵便料金の値上げがあることは
間違いないと思います。3割金額があがり、3割減少したのであれば、結果的
に売上額は変わらないということかもしれません。
ところで、司法書士をしていて、郵便を一番利用する業務といえば、「戸籍
の請求」になると思います。この業務では、郵送料とは別に、戸籍の費用とし
て、定額小為替を利用する必要があるのですが、この定額小為替には、日々の
業務で大変ストレスを感じています。
定額小為替の利用方法を簡単にいえば、「現金そのものを封筒にいれられな
いので、郵送用の1000円や500円と書かれた紙幣代用品の証書たる小為
替を買って、これを郵送し、受取った市町村は、受取ったこの証書を郵便局で
換金する。」というものです。
問題は、この紙幣代用品の金額にかかわらず、「1枚いくらという手数料が
かかる。」という点です。ちなみに、現在、1枚あたり、100円手数料がか
かります。(昔は1枚10円でした。)つまり、50円の定額小為替を買うの
に100円かかります。1000円の定額小為替でも10パーセントの手数料
で高額と思うのに、50円であれば200パーセントの手数料です。
現在、全国の市町村に電子納付をして戸籍を請求できるよう、制度改正にむ
けて動いているという情報があります。早く実現して欲しいと切に願っていま
す。
2025.01.31(金)【巳年も1か月経過】(金子登志雄)
巳年の本年も本日をもって1か月が経過します。28日の鈴木さんの投稿に
もありましたが、蛇は何度も脱皮するので再生や復活の象徴ですが、皆様にと
って本年は再生の年になれそうですか。
私は昨年は入院するなどで決してよい年ではなかったため、今年は再生する
ぞと張り切って新年を迎えましたが、先日、ネズミ年の人間にとって蛇は天敵
であり、よい年になるかは不明だといわれてしまいました。私はネズミ年なん
です。
本年は十二支では「巳(み:へび)」年ですが、十干では「乙(おつ:きの
と)」の年となり、干支(えと)では「乙巳(きのと・み)」となります。
念のため、十干(じっかん)は、甲乙丙丁戊(ぼ)己(き)庚(こう)辛
(しん)壬(じん)癸(き)であり、十二支は、子(ね)丑(うし)寅(とら)
卯(うさぎ)辰(たつ)巳(み)午(うま)未(ひつじ)申(さる)酉(とり)
戌(いぬ)亥(いのしし)です。
10と12の最小公倍数が60で、60年で干支が一周するため、60歳の
ことを還暦というのだそうです。
昔、12社の合併公告で、甲乙丙丁・・・子丑と表現していたものをみて笑
ってしまったことがありますが、12社ならABCD・・・が適切で、26社
以上では、甲、乙1、乙2、乙3・・・・がよいといえます。組織再編を多数
経験する方は覚えておくと便利です。
2025.01.30(木)【みなし種類変更前後の変更登記事項】(金子登志雄)
法律上当然の持分会社の「種類の変更」につき、会社法639条に次のよう
にあります。
----------------------------------------------------------------------
1 合資会社の有限責任社員が退社したことにより当該合資会社の社員が無
限責任社員のみとなった場合には、当該合資会社は、合名会社となる定款の変
更をしたものとみなす。
2 合資会社の無限責任社員が退社したことにより当該合資会社の社員が有
限責任社員のみとなった場合には、当該合資会社は、合同会社となる定款の変
更をしたものとみなす。
----------------------------------------------------------------------
手続的には変更後の持分会社の設立、変更前の持分会社の解散という方式に
なるため組織変更に似ていますが、効力発生日が前者では上記のとおり退社日
であり、後者では会社が定めた効力発生日です。
この結果、組織変更では組織変更前に発生した登記事項は組織変更前の会社
が登記すべき事項ですが、法律上当然の持分会社の「種類の変更」では、種類
変更後に生じた事項は変更後の会社が申請すべき事項になります。
しかし、種類の変更は設立と解散の登記になりますが、実質は定款変更です。
商号変更などと同様に、種類変更後の会社が種類変更前に生じた事項について
も申請することになるはずです。
以上につき、「合資会社の有限責任社員が退社したことにより当該合資会社
の社員が無限責任社員のみとなったが、その後無限責任社員の住所が変更され
ている」という種類変更の登記につき質問され、種類変更後の住所変更だから、
合名会社の設立登記で新住所にすれば足りるのではないかと答えましたが、種
類変更前の住所変更だったら、解散する合資会社に登記するのか、変更後の合
名会社で新住所にすればよいのかと考え、先例もなく確信をもった回答ができ
ず、管轄法務局とご相談くださいとしか答えられませんでした。
2025.01.29(水)【オールドメディアの逆襲】(金子登志雄)
前兵庫県議であった竹内氏の自死につき、TBSの「報道特集」が25日に
NHK党の党首立花氏などによるSNSによる竹内氏への誹謗中傷を特集し、
ファクトチェックをしたことにつき、今週はネットで話題になっています。
https://www.youtube.com/watch?v=ow2HmGfeIko&rco=1
もっと早くこれをやってくれていたら、竹内氏も死なずに済んだかもしれま
せんが、既存メディアも、社会正義上、これ以上放置できないと思ったのでし
ょう、一斉にSNSの誹謗中傷に対して攻撃を開始した印象です。
SNSは情報発信として実に威力がありますが、所詮はインフルエンサーと
いわれる個人の発信が中心であるため、テレビや新聞の力にはかなうわけがあ
りません。情報収集力においても読者や視聴者数においてもです。今回のよう
にテレビや新聞が取り上げ、ファクトチェックし、それが話題になればSNS
でも拡散されますから、なおさらです。
上記のユーチューブをみましたか。立花氏が竹内氏の自宅に突撃しようと演
説すると支持者の聴衆が喜んで拍手するのです。悪い奴を成敗する意識なので
しょうが、デマに洗脳される人(犬・猫・野菜扱いされています)がこうも多
いのかと恐ろしくなります。
デマゴーグの弁護士数人がよくネットに登場しますが、彼らにはリーガルマ
インドがあるのでしょうか。カネになるので、あえてそれを無視しているので
しょうか。リーガルマインドは健全な常識でありバランス感覚でもあります。
法務に従事する司法書士であれば、その感覚を持ち続け、洗脳されない人間で
あり続けたいものです。
2025.01.28(火)【新年会】(東京・鈴木龍介)
1月は新年会や賀詞交歓(交換)会のシーズンですが、立場上(日本司法書
士会連合会の副会長)、自分が属する団体以外にも諸団体の新年会等に参加す
る機会が結構、あります(した)。
先週あたりが今年の新年会等のピークかと思いますが、今年の印象というか、
感想としては、全般的に参加者が増えたような感じがします。コロナ禍の収束
がもっとも大きなところかと思いますが、やはり皆さん、リアルに会って話し
たいんだな、ということでしょうか。ということで、久しぶりにお目にかかれ
た方々も多く、個人的にもよかったと思っています。加えて、少々うがった見
方かもしれませんが、政局や選挙の関係から政治家の方々の参加も多かったよ
うな気がします。
新年会では挨拶はつきものですが、今年は巳(ヘビ)年ということで、ヘビ
は一生に100回もの脱皮をしながら、成長をするということにちなんで、変
化をおそれることなく成長していきましょう、という趣旨のものが多かったよ
うな気がします。ちなみに、私もいくつかで挨拶をする機会がありましたが、
ヘビの話はしませんでした。
2025.01.27(月)【株式併合と端数処理】(金子登志雄)
キャッシュアウト目的の株式併合が増えたのか、端数処理の質問を受ける機
会が増えましたので、想定事例で説明しておきましょう。
発行済株式の総数1664株の甲社の株主構成は次だとし、5株を1株に併
合すると、
(併合前株主構成) (併合後)
A 111株 22.2株・・・22株&端数は現金
B 222株 44.4・・・・44株&端数は現金
C 333株 66.6・・・・66株&端数が現金
D 443株 88.6・・・・88株&端数は現金
E 555株 111・・・・・・111株のみ。
株主ABCDに1未満の端数が生じましたが、これを個々に切り捨てると不
平等が生じますので、端数合計1.8株の0.8を切り捨て、残った併合後の
1株を裁判所の任意売却処分により、売却します。購入者は自社にしたり、あ
らかじめ定めておき裁判所に知らしめておきます。これで〇〇円で売れたら、
これを株主ABCDで端数に応じた金額を分配します。
この端数合計1株の性格ですが、購入者のものになって初めて1株になり、
それまでは端数の合計に過ぎませんから正式な株式ではなく議決権もありませ
ん。しばしば端数を生じた株主ABCDの共有でそれを売却処分したといわれ
ますが、それは説明のための比喩であり、共有になったわけではありません。
ただし、株式併合の効力発生時に、332株(1664株÷5=332.8)
になったと登記されます。
2025.01.22(水)【新株予約権の譲渡性】(金子登志雄)
兵庫県知事選挙問題で、SNSによる誹謗中傷が原因で、とうとう3人目の
死亡者が生じました。非常に優秀な竹内英明(ひであき)元県議です。記者が
知事に県職員や反知事議員への執拗な誹謗中傷に対し繰り返し対応を求めてい
たのに、誹謗中傷者が知事支援者だったためか何の手も打たずにいたので、今
後知事への批判はさらに燃え盛ることでしょう。
竹内元県議は学生時代に新進党初代学生部長を務めたほど、政治家として頼
もしい方でしたが、親しい人からも「ネットにこんなことが出ていたが、本当
か」と問われるなどが続き鬱状態になってしまったようです。信じがたいこと
に、死亡後にも執拗に中傷されていたのですから、怖い社会になったものです。
https://is.gd/YTOgf3
さて、新株予約権ですが、昔から従業員が退職しストックオプションの新株
予約権を自己新株予約権にした場合、新規に入社する従業員に再利用のため処
分(譲渡)することができるかなどと議論されていました。税制適格の決議後
2年経過後からの行使などにつき、この新人だけ2年待たずに済むのはおかし
いから再利用は無理ではないかなどといわれていました。
ところが、平成27年会社法改正で設けられた特別支配株主の売渡請求では
新株予約権も対象にされましたし、令和3年に新設された株式交付では新株予
約権をも譲り受けられるようになりました。いずれも、子会社で新株予約権が
行使されると、議決権数が薄まってしまうため、その防衛策です。
その影響か、現在では、キャッシュアウトの株式併合の際に、新株予約権を
も買い取る例が増えたようです。ほとんどが、行使条件に取締役や従業員であ
ることとされていますので、会社が買い取っても行使することができないのに
譲り受けることができるとされているわけです。
ということであれば、新人への再利用としての譲渡も肯定することができる
のかと考えましたが、以上の肯定された理由はいずれも議決権確保の防衛策で
あり、購入後には廃止するはずです。やはり、新人への再利用目的の譲渡は依
然としてグレーだと思っていたほうがよさそうだなと思いました。
2025.01.21(火)【「特集 税理士のための会社法実務のポイント」】
(東京・鈴木龍介)
中央経済社から刊行されています税理士向けの月刊誌「税務弘報」の2025年
2月号に「特集 税理士のための会社法実務のポイント」(本特集)が掲載さ
れました。
https://www.chuokeizai.co.jp/tax/
本特集は、タイトルのとおり税理士の方々に実務の現場で登場することの多
い会社法のポイントについて、以下の7つのテーマを設定し、新進気鋭の司法
書士(初執筆の方もいます。)がQ&A形式により解説したものです(全65
ページのけっこうなボリュームです。)。なお、代表取締役等の住所登記非表
示措置や定款認証の見直しなど最新の実務にも触れています。
・株式会社の設立(真下幸宏)
・株式(齋藤千恵)
・機関・役員(加勢弥生)
・増資・減資(岩本直也)
・解散・清算(鈴木裕摩)
・合同会社の設立・運営(立花宏)
・商業登記の見方・調べ方(早川将和)
私は、本特集のイントロとして「解題:司法書士の視点 税理士と司法書士
の協働のすすめ―本特集の趣旨等を交えて」の寄稿と、特集全般の企画、監修
に携わりました。
税理士向けの公刊物にこのようなかたちで司法書士が登場できたことは、手
前味噌ですが、司法書士ブランドの浸透という意味でも良い企画だったかと思
っています。
よろしければ、ご一読いただき、批評等賜れれば幸いです。
2025.01.20(月)【新米編集者】(仙台・立花宏)
1月14日(火)に鈴木先生が、1月16日(木)に金子先生が、昨年12月
に出版した拙著『ケース別商業登記添付書面-必要となる書類と実務のポイント
-』(新日本法規出版)に関連して、編集者の苦労と喜び等をコメントされてい
らっしゃいました。
せっかくですので、私も自分自身の編集者としての仕事を少しだけ振り返って
みました。私自身のこの本の制作への参加は、2023年3月からでした。正直
なところ、「編集者」という立場は初めてでしたので、それがどういう立場なの
か、まったく理解していないままお引き受けしました。
鈴木先生が編集者をされている書籍等に参加させていただいたことはありまし
たので、なんとなくわかっていたつもりだったのですが、お引き受けしたあと、
では、次に何をすればよいのだろうというところでつまずき、インターネットで
「編集者」の単語で検索して、何をすればよいのかを調べたり、出版社の担当者
の方にお聞きしたりという、実にお恥ずかしいスタートだったことを覚えていま
す。
まず、執筆いただける方を探したのですが、たぶん、まわりから見たら、スム
ーズに執筆者が決まったという印象をお持ちになるかもしれないくらい、執筆者
の皆様には快くお引き受けいただきました。しかし、私自身は、断られたらどう
しよう、執筆するところにすらたどり着かなかったらどうしようかと不安になり、
なんとしてもお引き受けいただかなくてはならないという背水の陣の気持ちでし
た。執筆者の皆さんからしたら、どうしてこんなにも思いつめた表情で依頼する
のだろうと思っていただろうと思います(電話やメールでの依頼なので、実際に
は表情は見えなかったはずですが)。
正直なところ、執筆者の皆さんにお引き受けいただいた段階で、私は、もうす
でに精も根も尽き果てたといった状況でした。その時の心の中の気持ちを声に出
すとしたら、「誰か編集者を代わってください」という言葉だったと思います。
しかし、その後、執筆者の皆様との打ち合わせをしていく中で、執筆者の皆様
から、「せっかくなので、○○の論点もいれてはどうか」、「この用語はこれで
統一してはどうか」等、様々なご提案をいただき、むしろ、私が編集者として執
筆者の方をまとめていくというより、執筆者の皆様に引っ張ってもらい、なんと
か、出版という目的地までたどり着くことができたような気がします。
「担ぐ神輿は軽い方がよい」という言葉を聞いたことがありますが、そうした
頼りない編集者でしたので、内容の面では、執筆者の皆様には、編集者に遠慮す
ることなく、思う存分、ご自身の実力を発揮していただけただろうと善解してお
ります。
そして、執筆者の皆様には、力強く私の乗った神輿を担いでいただき、私はい
つのまにか、出版という目的地まで運んでいただきました。執筆者の皆様には、
この場をお借りして、お礼を申し上げます。ありがとうございました。
鈴木先生や金子先生のコメントとはまったく方向性が違ってしまいましたが、
以上が、今回、はじめて「編集者」を担当したことについての感想です。
男はつらいよの寅さんの言葉をお借りすれば、「思い起こせば恥ずかしきこと
の数々、今はただ、後悔と反省の日々を過ごしております」といった感じでしょ
うか。
2025.01.16(木)【編集の苦労】(金子登志雄)
ネタ切れのため、14日の鈴木さんの投稿に反応します。
私の場合は、神崎先生や鈴木さんと並んでの編著はあっても、金子単独の編
著はありません。編集を頼まれると断るからです。全8巻の「商業登記全書」
でも、私が担当した第7巻(組織再編の手続)だけは私の単独著書になってい
ます。私一人に任せてくれるという条件で執筆に参加したためです。
編集者をお断りしている理由は、もともと個人行動が適性に合っているため
ですが、過去に編集に懲りた経験があることも大きも原因です。
実は司法書士になる前のことですが、立場上私が編集者になった1988年
刊行の私の最初の共著書である下記の『実戦M&A事典』では10人以上の執
筆者に書いてもらったのですが(当時の私は編著者日本M&A研究所の事務局
長でした)、内容が他の執筆者とダブったりしたため、編集の都合で、ここを
こう書き直してよいかと頼んだところ、激しく抗議された経験が何度かあるの
で、それ以来、自分一人で書いた方が楽だと思っているからです。私自身も他
人に原稿を直されるのは嫌なので、編集者には向いていないわけです。
https://is.gd/NtSygU
ただ、上記本の場合は、執筆者の中心が公認会計士で、文章に慣れていない
方もいらっしゃったため、編集のウエイトが大きくなったのですが、鈴木さん
や立花さんが編集した本は執筆者が全員文章に慣れた同職の司法書士ですから、
編集者と執筆者との軋轢はほとんど生じなかったでしょう。それなら、私も編
集者になれるかもしれませんが、内容だけでなく文章表現にも口を出してしま
うタイプのため、やはりお断りしたほうがよさそうです。
2025.01.15(水)【時代背景の差】(金子登志雄)
まだ入手していませんが、松井『商業登記ハンドブック』が改訂され第5版
が出版されるので、さっそく注文しておきました。江頭株式会社法と同様に権
威ある本なので、著作等に引用することが多いため、執筆活動に従事する我々
には必携本だからです。
先週木曜日の立花さんの投稿に、「「登記研究」922号の横浜地方法務局
法人登記部門首席登記官の山森航太氏による「ポイント解説 基礎から考える
登記実務(第4回)」の論考は、有名な松井信憲氏の『商業登記ハンドブック』
とは異なる見解で論じられておりましたが、見解の相違というよりも、時代背
景の差でしょう。」とありましたとおり、私も松井氏が時代の変化に伴い異論
を出されている初期の見解を変更したかが最大の関心ごとですが、元商事課長
の松井氏が見解を変えると従来の実務に与える影響が大きいので、お立場上、
難しいでしょう。
何の話か通じない方もおられるでしょうから、改めて徒然なるままに会社法
599条3項の「社員の互選」の社員とは業務執行社員のことかという解釈問
題に限定して条文を比較してみました。
次を比較してください。①②③【 】は本書で挿入したものです。
----------------------------------------------------------------------
1.会社法349条3項 株式会社(略)は、①定款、②【定款の定めに基づ
く取締役の互選】又は③株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締
役を定めることができる。
2.会社法599条3項 持分会社は、①定款又は②【定款の定めに基づく社
員の互選】によって、業務を執行する社員の中から持分会社を代表する社員
を定めることがきる。
----------------------------------------------------------------------
このように所有と経営が分離している株式会社では代表者の定め方が3種類
で、所有と経営が一体化している持分会社では2種類になりますが、会社法の
制定直後は、上記のように配列されているためか、株式会社の業務執行機関で
ある取締役の互選と同様に、2の持分会社でも、互選する社員とは業務執行社
員であるべきだと思考してしまったのでしょう。
しかし、2の②は1でいえば③の株主総会決議に対応します。会社法599
条3項の前身である旧商法76条は次でした。
----------------------------------------------------------------------
3.旧商法第76条 業務を執行する社員は各自会社を代表す但し①定款又は
②総社員の同意を以て業務執行社員中特に会社を代表すべき者を定むること
を妨げず
----------------------------------------------------------------------
つまり、この総社員の同意が上記3の定款の定めに基づく社員の互選に改正
されたものです。総社員の同意まで要求すると株主総会の普通決議でよい株式
会社とバランスを欠くため、同意要件を緩和したものでしょう。
以上のとおり、合同会社につき十分に議論が熟してきた今日では、登記所内
でも我々の見解に近い山森見解が登場したのはごく自然なことであり歓迎すべ
きことだというのが立花投稿の内容でした。もちろん私も同じです。
2025.01.14(火)【書籍『ケース別 商業登記添付書面
―必要となる書類と実務のポイント―』】(東京・鈴木龍介)
遅ればせながら正月休みに、本コーナーの常連でもある立花さんの手による
『ケース別 商業登記添付書面―必要となる書類と実務のポイント―』(新日
本法規/本書)を拝読させていただきました。
https://www.sn-hoki.co.jp/shop/item/5100348
本書については、すでに11月25日(月)に立花さん本人が、11月27
日(水)に本コーナーの主筆である金子さんが取り上げていますので、内容の
紹介等はそちらに譲ることととして、別の観点でコメントしたいと思います。
本書は、立花さんが執筆者であるとともに、編(集)者を務められています。
他の共著者は現役の司法書士5名の方々で、私も濃淡はありますが存じ上げて
いる皆さんです。
私自身、実務書の編(集)者を務めることが多いのですが(たぶん編著者
(編集者兼共著者)本が一番多いような気がします。)、これが結構、大変な
のです。私のこれまでの経験(推察を含みます。)によりますが、最初に編
(集)者が書籍全体の骨子であるコンセプト、目次、記述する内容や書きぶり
等を相当程度、固めておく必要があります。そのうえで、共著者の方々に執筆
をお願いするわけですが、骨子がグラグラしていると後で大直しという憂き目
を見ることになり、出版社や共著者の方々に迷惑をかけてしまいます。
スケジュールの管理にも気を使います。私の場合、出版予定時から逆算して、
いつまでに何をというかたちのスケジューリングを策定して取り組みますが、
諸般の事情から予定どおり進まないことも少なくありませんし、遅れ気味の共
著者に催促したり、出版社に言い訳をするのも、まあまあストレスです。
編(集)者としての原稿やゲラの校正作業については、共著者との関係性に
もよりますが、手間暇かけて執筆いただいたものに手を入れるということで、
それなりの信念と勇気が必要です。
それでも、何人かでの共同作業により1つのプロダクトを作りあげるという
ことは、完成した書籍を手にしたときの感慨がひとしおです。
ちなみに、立花さんはいかがでしたでしょうか?
2025.01.09(木)【本年もどうぞよろしくお願いいたします】
(仙台・立花宏)
今年の最初の投稿となります。
皆様、本年もどうぞよろしくお願いいたします。
さて、今年最初の投稿も、合同会社の話題です。
昨年の合同会社の設立状況ですが、法務省の登記統計が10月分まで掲載され
ていました。月別の件数を集計してみたところ、昨年1月~10月までの合同会
社の設立(登記申請)数は、35,422件でした。一昨年の同時期の集計は
34,144件でしたので、少し増加しており、おそらく、年間の件数も微増に
なると思われます。
参考までに、株式会社の同時期の設立数は、昨年が83,580件で、一昨年
の84,504件から微減となっています。
登記統計をみると、株式会社も合同会社も、9月と10月は、一昨年より昨年
の方が設立数が少なくなっており、会社の設立数全体が少し減少しているので、
以後、減少傾向となるのかどうか、それが気になるところです。
しかし、設立数全体に対する合同会社の設立数の割合は少しずつですが増えて
おり、今度もその傾向は続くと想像しています。私達司法書士や会社の法務関係
に携わる方たちにとっては、合同会社の存在感はますます大きくなるだろうと考
えております。
ところで、昨年末に発行された「登記研究」(テイハン)922号では、横浜
地方法務局法人登記部門首席登記官の山森航太氏による「ポイント解説 基礎か
ら考える登記実務(第4回)」が掲載されていました。テーマは「合同会社の業
務執行社員と代表社員について」です。
この論考の中で、金子先生にご指導をいただいた拙著『商業登記実務から見た
合同会社の運営と理論第2版』(中央経済社)や、「月刊登記情報」に掲載され
た金子先生の論考「合同会社の代表社員の就任承諾の要否」等が参考文献として
掲げられており、金子先生や私の考え方に肯定的な見解で論じられていらっしゃ
いました。
具体的には、代表社員を定款の定めに基づく社員の互選で定める場合の互選の
主体は「社員」なのか「業務執行社員」なのか、前者だとする場合、定款に「業
務執行社員の互選」と定めた場合は有効なのか、といった論点や、登記実務上、
互選で定められた代表社員は就任承諾書の添付が要求されていますが、この就任
承諾書とはどういう意味合いのものなのか、代表社員が法人の場合に就任承諾の
意思表示するのは代表者なのか、職務執行者なのか、また、定款に互選と定めた
場合は、業務執行社員と代表社員の地位は分化するのかといった論点です。
ご興味のある方は、ぜひ、ご覧いただければと存じます。今回の山森氏の論考
は、有名な松井信憲氏の『商業登記ハンドブック』とは異なる見解で論じられて
おりましたが、見解の相違というよりも、時代背景の差でしょう。会社法施行直
後の合同会社につき十分に議論されていなかった時期のパイオニアとしての見解
と、それを前提に合同会社につき十分に議論が熟した今日との差です。
2025.01.08(水)【巳年をむかえて】(島根・根来川弘充)
皆様あけましておめでとうございます。
昨年は元日から能登半島に大きな震災がありました。その後には豪雨水害と、
被災された皆様には、大変な年だったと思います。一日も早い回復をご祈念申
し上げます。
自然災害がおこることはやむをえないものと思えるのですが、人災と言える
紛争が昨年でもたくさんありました。日本もふくめて、各国の政情不安もあり、
この先、どのようになるのか大変心配になります。
話はまったくかわりますが、昨年4月より相続登記の義務化がはじまりまし
た。1月あたりから相談はふえていましたが、8月ごろから少なくなりました。
おそらくは、3年間の猶予期間があることが周知されたからではないかと思い
ます。とはいえ、あと2年後にまた増えることが予想されます。引き続き啓発
活動をする必要があると思います。
その他、個人的なことですが、今年はあらたな挑戦をしたいと思います。
年内の早い時期でご報告ができたらと思います。本年もよろしく御願い申し上
げます。
2025.01.07(火)【謹賀新年2025年】(東京・鈴木龍介)
本年最初の投稿ということで、まずは“明けましておめでとうございます。”
月日が流れるのも早いもので、21世紀も4分の1(四半世紀)ということ
になります。
今年のお正月は、おおむね全国的に天候にも恵まれた中、ゆっくり過ごすこ
とができました。恒例(?)の原稿書きや校正に勤しんでいましたが、この年
末年始は、とにかくよく眠りまして、いわゆる睡眠負債――必要な睡眠時間に
対して実際の睡眠時間が慢性的に不足している状態が積み重なった状態を借金
に例えたもの――の解消ができたような気がします。
さて、今年はどうかというとマクロ的な観点としては、コロナ禍は収束した
ものの、ウクライナ、中東、韓国等々平和平穏とは程遠い状況が続いています。
円高や利上げに加え、政治も不安定感が拭えず、決して見通しのよい感じはし
ません。
私個人としては、例年のごとく夢はもとより格別の目標などもありませんが、
目の前のことを1つずつきちんと丁寧に対応し、少しでも何らかのお役に立て
ればと思っています。
ということで、本年も引き続き、よろしくお願いいたします。
~追記~
数年前より公私ともに年賀状を廃止しました関係で、年賀状を頂戴いたしま
した方々には、この場を借りまして御礼と欠礼のお詫びを申し上げます。
2025.01.06(月)【謹賀新年】(金子登志雄)
この年越しは寝正月でした。テレビは原則としてみないので、NHK紅白も
箱根駅伝も全く知りません。いつもどおり、パソコンで時事ネタのユーチュー
ブをみたりの生活でした。
年末恒例の貧困者支援の炊き出しに並ぶのは10年前はホームレスだけだっ
たのに、いまはアパートや市営住宅に住むごく普通の生活者が急増しているよ
うですし、子ども食堂も全国に増えました。
貧困度を表すエンゲル係数(家計における食料費の占める割合)が日本では
諸外国に比し急上昇していますし、GDPでは世界で第4位をキープしている
といっても1人当たりでは韓国や台湾にも負けており世界で40位程度に落ち
ました。
(エンゲル係数比較)
https://honkawa2.sakura.ne.jp/0211.html
(1人あたりGDP比較)
https://is.gd/vHfzeb
今後ますますインフレが進み貧困層が増え将来に対する明るい展望は描きに
くいのですが、それでも犯罪発生率が少なく、日本国民の公共心は世界1です
から、日本社会はまだまだ底力がありそうなので、今後に期待しましょう。
私の専門とする会社法は制定後19年目になります。論点もほぼ出尽くし、
出版や講演など私の活躍舞台も激減してしまいましたが、逆に言えば、十分に
社会に浸透したということでしょう。旧商法を知らない若い司法書士も増え、
会社法を自在に使えるかどうかが腕の見せ所になってきたわけですから、実務
相談など質疑応答の場面では私の役割がまだまだありそうです。本年も引き続
き頑張ります。
- 過去徒然